ブックフェア/電子出版EXPO 2013レポート
ブックフェアと電子出版EXPOに行ってまいりました。
電子出版EXPOとブックフェアの区別ってなんだ。
一昨年、去年、今年と3年連続でブックフェア/電子出版EXPOを見に行っているわけだけど「電子出版元年」とかで雨後の筍のように様々なサービス、ストア、有象無象がわいていた一昨年と、元年といいつつ思ったより広がらなかった市場に軽く失望しつつ、でもkobo、kindle上陸直前で「まだ何かあるんじゃないか」との期待感のあった去年に比べて、今年はなんというか、よく言えば落ち着き。悪く言えば…な感じで、どうも盛り上がりに欠ける気はいたしました。
山ほどあった電子書籍変換出版サービスとか、多少淘汰されたのかなぁ。電書ストアとか、大手だってあんまり儲かってないし引くに引けずにやってるところもありそうだな。BookLive!は-40億の大赤字だとかで「こんな大赤字になるなんて日本では電子書籍市場は無理だ」的な話もでてるみたいだけど、BookLive!の赤字は知名度が低いのをカバーするための広告費に加えて、ストアに特色、得意分野がなくて客が集まらず利益をあげれないのが原因じゃないかと思うけど…。現に同じようにバンバン広告だしてるパピレスなんかは利益あげてるんだよねー。もう、どこで儲かってるか一目瞭然だけど。(エロ!BL!TL!なわけだ)
あ、ところで今回のブックフェア/電子出版EXPO、BookLive!とか楽天koboなんかは電子出版EXPOエリアではなくブックフェアエリアに出展してました。
大日本印刷なんかもhontoブースを含めブックフェアエリアに出展。「電子出版」というジャンルじゃなくて「書店」として見てほしいってことなのか?
電子出版EXPOといいつつ、最大手のamazonさんとか、Googleブックスさんなんかは全然参加してないし、もし参加するとしてもブックフェアエリアになりそうな気がする。なんとなく、電子出版EXPOとブックフェアの区別が曖昧になってる感じがします。
かといって、ブックフェアのエリアが盛り上がっているかっていうと、楽天、大日本などの電子書籍ブース以外は割と中小の出版社が多く、ほとんどのブースが本の展示即売を細々とやるというような、一体何が目的なのか分からない感…。
そんな展示会でしたが、見て歩いた中から、私が興味を持ったものを中心にレポートを。
凸版印刷
電子書籍EXPOエリアでは最大スペースでの展示。
子会社の電書ストアであるBookLive!はブックフェアの方に別出展してたから、そこも含めて考えるとこの展示会最大の出展社と言えるかも。
電車の中の中吊りから記事を買う、というコンセプトのアプリ
車内風景を模したインターフェースで、中吊りを表示。中吊りの中の気になる見出しから記事を1記事単位で購入できる。
アプリの内容としては、雑誌などを記事単位で買うというものでしかないのだけど、中吊りというインターフェースにしたのが受けていた。
表示されている中吊りデータは実際に電車などで掲示されているものを想定。
中吊りの見出しから気になるタイトルをクリックするとその記事が読める仕組み。すべての記事が読める訳ではなく、どの記事を読めるようにするかは中吊りの出店者が決める事ができる。
出店料は無料。記事が売れた場合売り上げからいくらかのマージンが凸版印刷に入る。
課金方法は現在未定で、クレジットカードの決済や携帯の使用料としての徴収などを検討中。
デモ機はAndroid機での表示だったが、iPhoneにも対応予定。
残念ながら、実際の現在地とは連動していない。つまり、自分が今のっている電車の情報と連動して同じ中吊りを表示するという機能はないってこと。これ、連動してたら面白いんだけど、まぁそうなると表示できる中吊りが制限されてきちゃうし、実際には難しいよね。
あと、これバンダイナムコと協力して開発してるとかで、おまけ機能としてミニゲームがついてるんだけど、このミニゲーム、「車内で釣り針をつかってスカートをひっかけるゲームがついてた」という噂を聞いたんだけど、ほんとだろうか?かなりギリギリ…いや完全アウトなゲームが気がする。ほんとですか、凸版さん。うーん、確認してみたかった。残念。
凸版フォント
去年の電子出版EXPOで予告されていた「凸版フォントのリニューアル」今年は実際のリニューアルフォントの見本も含めての展示。
フォント、という(見方によっては)地味なものの展示としては、かなり力を入れていて、凸版活字の原字(というのか?)や金属活字なども展示してあった。
新しい書体は2013年秋に明朝体がリリース、その後2014年秋にゴシック体、見出し明朝体、2015年春に見出しゴシック体、2016年春にゴシック体Boldがリリース予定。
フォント名については、このまま「凸版」という名前をつけたフォントで行くのか、新しい名前をつけるのかは未定だそうな。凸版印刷には「こぶりな」という名前のフォントもあるのだけど「こぶりな」みたいに印象的な名前が「降ってきて」ひらめくのを待っているところだそう。
リニューアルされた凸版フォントの詳細については、監修者の祖父江氏を含めたトークセミナーが開催されていた。そちらの方もレポートを書いたので興味のある方はどうぞ。
大日本印刷
大日本印刷はブックフェアのフロアに出展。電書ストアサービスであるhontoとブースを並べていた。
honto pocket(参考出展)
フランクフルトのブックフェアなどでも話題になっていたという低価格デバイス。日本国内ではどこがやってくるかなーと思っていたのだけど、hontoがきましたか。
たしかに楽天とかamazonとかBookLive!とか独自端末もってるところは手を出せないもんね。その点hontoは端末を持っていない。
低価格デバイスということだが、実際は「デバイス代はタダ同然にして、コンテンツ代で稼ぐ」つまり「デバイスごと売る」というモデルである。
▲単三電池が入るところが出っ張ってる
5インチの電子ペーパー系端末。単三電池2本で稼働、1日30分の使用で1年間稼働できる。電池は入れ替え可能。文字サイズの変更などはできない。
honto pocketについては、デバイスにあらかじめテーマにそったコンテンツを収録しており、そのコンテンツ代金にデバイス代も含まれることになる。
▲文系作品をテーマにした「文豪」紙パッケージを含めての売り物。
容量4GBだが、現在15タイトルまでという制限がつけられている。つまり、コミックだったら15冊分のコンテンツを入れて、15冊分の価格で販売する。
コンテンツの入れ替えはBluetooth経由で可能。ただし現在の仕様では15タイトル以上は入れられないので、先に入っているコンテンツを消してから入れ替えることになる。実際にはこのビジネスモデルではユーザーがコンテンツを入れ替えるというのはあまり想定しておらず、買ったらそのまま本棚に並べておく、というイメージ。
実手に持ってみると5インチというサイズで文字サイズが変更できないため文庫本の場合1ページに表示される文字数が少ない。また漫画の場合は見開き表示はできないので、入れるコンテンツはそれなりに制限されるだろう。
正直、ちょっと安っぽい感じはする。おもちゃっぽいというか…。
あとパッケージも含め結局場所をとるので、これがたくさん集まるのもどうだかなぁ。
秀英体
DNPのオリジナルフォント秀英体。最近リニューアルしたということで、リニューアルの経過なども記した歴史本が出版されるそう。
まだ最終稿まえだとかで、見本だけが展示されておりました。2,100円ってこの手の本にしたらなかなかお安いんじゃない?
▲「100年目の書体づくり」未本誌
音声サービス
会場を歩いていて目についたのは、電子書籍の「読み上げ」サービス。
特に、合成音声で自動的に音声を生成するタイプのサービスがいくつかありました。
EPUB3で音声同期もできるようになったというのもあるし、あと今後電子書籍市場で期待できるのは学習・教育素材のエディケーション分野じゃないかと思ってるのだけど、そこでも読み上げ機能というのは必要になるしで、ちょっと盛り上がりつつあるかなという感じ。
NTT IT
音声合成SaaS バーチャル・ナレーター
Webブラウザで音声合成サービスにアクセスして必要なテキストを音声データに変換してもらうサービス。
基本的には月額契約で、変換できる文字数によって月額料が変わる
NTTクラルティ
音声付きEPUB作成サービス「おともじん」
EPUB、HTML、Word、テキスト、InDesignなどのデータから読み上げ用音声つきEPUBを作成。
音声作成には「音声合成SaaS バーチャル・ナレーター」を利用
EPUBとして作成して納品なので、リアルタイム合成音声ではなくて、読み上げ済みの音声データがEPUBにつくというもの(その分修正して納品されるので読み間違いなどはない)
NTTメディアインテリジェンス研究所
次世代の音声付き電子書籍〜あなたの声でよみあげます〜(参考展示)
ユーザーが数秒間の声を登録することによって、そこからその人の声に似せた合成音声を作成。
ユーザーの声や話し方に似せた合成音声ができるというのを、ユーザデザイン音声合成技術というらしい。
ただ、これも「この音声をつけたEPUBを作成します」という話なので、このエンジン自体がついたブラウザなどがでるわけではなく「似た音声の音声データを作って納品しますよ」というもの。
このエンジン自体が自由に使えたら、結構面白そうなんだけどね。
小ネタ
ブックフェアの隣でやってたプロダクションEXPOが面白い
隣というか同じフロアで並んでやってるから紛れ込んじゃったんだけど、いやーこっちの方が面白いわー。
▲特殊なラジコンヘリみたいなので空中から撮影する機材とデモ。すげーかっけー。
▲カメラで撮った動きにリアルタイムにあわせて画像が変化する。
▲人の動きをそのまま3Dモデルに伝える
こういう凝ったコンテンツ制作って電子書籍EXPOの方にも若干あるんだけど、断然こっちの方がクオリティ高い。まぁ当然か。
【感想】
一日歩き回って、色々見て回ったんだけど「これは!」というような新サービス、新技術というのはそれほどなく…。ただ、各ブースで商談をした人の話だと、去年、一昨年と違って今年の商談は「より具体的な数字」をだしてのものが多かったということで、そういう意味では電子書籍制作が実験の場から実践の段階に移ってきたということなのかなとも。
実はこの後、別の会場で「第一回『裏』東京国際ブックフェア」というのが開催されて、そちらの方で聞いた話などが超面白かったのだけど、残念ながらそこは完全オフレコ!という決まりの会なのでここには書けない。「来年も開催を!(笑)」という声も上がっていたので、来年もあるといいなぁー。