ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

電子出版EXPO TOPPANブースセミナー 凸版書体の魅力とこれからの文字デザイン

電子出版EXPO、凸版印刷ブースでのセミナー「凸版書体の魅力とこれからの文字デザイン」のレポートです。
内容はすべて私のメモ書きから書き起こしてますので、正確な物ではありません。
大体こういう話だったよーという程度です。
祖父江氏の話はメモるの大変でしたので、正直書き漏らした部分多いです…

【スピーカー】

祖父江 慎(ブックデザイナー)
田原 恭二凸版印刷 デジタルコンテンツセンター技術部 課長)
紺野 慎一凸版印刷 デジタルコンテンツセンター技術部)

その1 語られることの少なかった凸版明朝・凸版ゴシック

祖父江:語られることの少なかった凸版明朝・凸版ゴシック、ってことで、凸版フォントは謎の多いフォントだよね
紺野:実際僕らも詳しい事はまだ知りきれてないんです。今、印刷博物館などとも協力してその歴史などを調べている最中。まだまだ分かっていない事が多い。


凸版書体の特徴は?

▲右二つが凸版書体
田原:1950年頃から使い始められている書体です。主に書籍などで使用されました。誰でも読める、単純で美しい書体ということで、それまでは(図の)左のような、つながった文字が多かった。これは筆文字の筆運びから来ています。「き」や「さ」などがつながっている、切れていないのが一般的だった。凸版書体はここに、ペンで書いたようなモダンな文字として登場した

祖父江:凸版明朝は他の書体と区別しやすいんだよね。「さ」とか「き」を見ればすぐにわかる
祖父江:ちなみに(画面に出ているつながっている例の)左の書体は大日本印刷(の秀英体)だね
紺野:あ、言っちゃった(笑)他意はないです(笑)
祖父江:凸版フォントとちょうど真逆のフォントだよね。つながっているのとどんどん切っているのと。

田原:凸版活字がでてきた時台背景を見ると理解しやすいんです。戦後それまでまちまちだった教科書の書体などがそれはまずいということで、教科書用の書体などがつくられた。この昭和30年前後に凸版オリジナルの活字が作られている。昭和30年前後というこの辺の歴史についても実はまだあやふやで、今調べている最中です。

祖父江:代表的な日本の活字の中でも最後に登場したのが凸版の活字。凸版活字は「日本の書体は今後こうなるぞ」という戦後の盛り上がり、教科書体などにあわせて生まれた文字。伝統的な活字の中でラストに登場してる。書体について、皆がこれからどんどん広がっていくという夢を見た時代の文字。
祖父江:これ以降は画期的な書体というのはそんなにでてない。どれもそれまでにあった文字をちょっと変えたというだけで。

祖父江:その凸版フォントなんだけど、なんだか最近他のフォント見分けがつきにくくなってきた。なんでかというと今のUDフォントの台頭。UDフォントは「よみやすさ」を主眼にするので「そ」とか「さ」とかをつながないのが多い。だから、凸版フォントと見分けがつきにくくなってきた。つまり教科書体的なわかりやすさ、読みやすさ、今のフォントは50年たってぐるっとそこに戻ってきているのかなと。
紺野:祖父江さんに凸版フォントの印象などを最初にうかがった時「UDフォントのはしりだよね」とおっしゃったのが印象的でよく覚えています



紺野:年表にあわせて話をしましょうか
祖父江:凸版明朝がでた昭和30年頃は写研の石井さんの「文字なんか1種類あればいいじゃないか、全部一つにしてしまえ」という野望があったころなんですが
紺野:えっ?それは事実としてそんなことがあったんですか?
祖父江:いや、そうじゃないかなーと思ってるだけなんだけど。
祖父江:そんな戦後の空気、時代背景にのってでたフォントが凸版明朝。
祖父江:書体というのは、その書体自体の美しさとかより慣れというか、その書体になじんでいるかどうかというので善し悪しを判断される事が多い。最近はそういう慣れているフォントばかり。凸版明朝が出た頃はもっと新しさとかがあった。最近登場するフォントはどれも似てきてるね

祖父江:凸版フォントはとてもユニークだと思うのは、誰もがよく目にしてると思うしすごく使われているフォントなのに、そのフォントについて誰も語っていない、歴史がわからない。
祖父江:何も言わずに凸版に仕事をお願いすると凸版明朝で組まれてくるんだよね
紺野:……いや、最近はそうでもないんですが…。
祖父江:あ、そうなの?
祖父江:でも、なかなか不思議なフォントだよね。ベントン機での活字が作られてから最近のCTSで利用されるまで、色々不思議なとこがある。書体がゴシックなのに句読点は明朝だとか、かなが2種類あるのに使い分けがあまり考えられていないとか。


その2 新しい凸版書体


祖父江:現在、新書体として5書体を開発中。このラインナップをみて、よくわかっている人は驚くと思う。
祖父江:明朝は縦組しか考えていない。縦組で美しいというのを最重要にするという、割り切り。

紺野:新しい凸版書体は4つの特徴があります。
田原:まず、明朝体は縦組で、ゴシック体は横組で、使用用途を限定して考えて制作。あとは、活字時代の伝統を引き継いだ力強い見出し書体。さらにデジタルで使われる事を考えて英数字を設計
祖父江:いずれも普通のフォントではやらない事だよね

新しい各書体について

凸版明朝

祖父江:もともとあった凸版明朝のクセを大事にしながらバランスをとるように改修してる。縦組でも横組でもバランスをとろうとすると、面積比が似てきちゃうんだよね。それをやらず、横組は考えず、縦組のみを考えたフォント。
祖父江:築地の5号活字とかも横に組むとちょっと不思議な感じになる、出たとこ勝負的な。そんな感じ。
祖父江:漢字については、元々の凸版明朝はふところ大きいと思ってた。今回はふところを大きくしないように作ってる。でも実は昔の凸版の書体を見直してみたら、今の他の書体に比べてそれほどふところ広くなかったんだよね。今のフォントはみんなふところが広くなってるので。
祖父江:横のラインについても、昔は活版印刷でインキのにじみで若干太るというのがあった。それを含めてのあの太さだったのに、今はそれがないのに太さが昔のままだった。そこを考えて、今回は横のラインをちょっと太くしている。

凸版ゴシック

紺野:ゴシックについては、明朝体以上にこだわってリニューアルしたのですが。
祖父江:横組で使う事を前提にやはり元々のクセを活かして作ってる。ひらがななどが気持ち小ぶりで読みやすいよね。カタカナの「ピ」の形とか可愛くて好きだ
田原:最近はホームページなど横組で文字を読む事が増えているので、あえて仮名のサイズをそろえず横組にしたときにぼこぼこしたリズム感がでて、読みやすくなるようにしている。
祖父江:ボコボコしてリズムで読みやすいというのはいいと思う。最近のは全部文字の大きさをそろえてしまっていてかえって読みにくくしているから。
紺野:今後ゴシックで横組を読むというニーズは増えていくと思う。凸版ゴシックを楽しみにしていただきたい。
祖父江:(見本の文字組をみながら)これ、句読点はゴシックのままでいいんですかね…
紺野:…いや、今はまだ調整中ですから、今後また変わるかもしれません。

見出し

紺野:通常見出し用としては、同じデザインでウエイトだけが変えられるものですが、今回は見出しとしてデザインから変更していまます。
紺野:最近のフォントでは通常、ファミリー内のウェイトの変化は同一デザインのまま太さだけが変化します。でも昔、活版のころは太さが変わればデザインも変わるものでした。
祖父江:1970年代ぐらいまでは別だったよね。でもフォントの制作で一つの文字からウエイト違いを作れるようになって、そのうち太さだけが違う同じデザインのフォントになった。そもそもウエイトが変わるのに文字の骨格が同じというのはどうかと思うよ
祖父江:昔は太さが変われば骨格が変わるのが当たり前だった。若い人のデザインなんかを見てるとね、まるで拡大縮小コピーしたみたいでキモチワルイんだよ。大きく使うのなら大きい骨格の文字がいるだろうと。

英数字

▲2番目、4番目が新しい凸版書体
祖父江:特にすごいのはこれ!英数字!いままで日本語フォントの従属欧文ってのは日本語の文字にあうように欧文を近づけてたんだよね。xハイトをあげたり、欧文のふところを広くしたり。それが徐々に、似たようなフォントを組み込むって方向になって、例えば(表示している組版例の)一番上のはゴシックにヘルベチカを合わせてある。
祖父江:でも今回はまったく違うテイストの欧文フォントをいれてみようという試み。(表示している組版例の)2例目は、日本語はこれなのに、欧文はエジプシャン系の英数字を入れた。一番下の明朝体の例もそう。
祖父江:それ以外にも、たとえば欧文と日本語の約物の違い、例えばパーレンの違いとか、こういうのも今調整しているところ。
紺野:自分でいうのも何ですが、かなり攻めてます。
祖父江:前向きですよね。昔、凸版活字が初めて世に出た頃のあたらし事をやるぞという前向きさがこの新しい凸版フォントに受け継がれていると思う

これからの文字デザインと組版

紺野:ここで、祖父江さんにこれからの文字デザインと組版について意見を頂きたいのですが
祖父江:今、電子出版されているものは文字の組み方がことごとくサイアク。美しい組み方というのが全然できてない。
祖父江:ただ、電子出版を使うこと自体はラクで面白いから、何とか伸びてほしいと思う。ごはん食べながら片手で本が読めたりするから。
祖父江:電子出版では大きさに対しての書体の選択というのもうまくいってないと思う。小さい表示のときは本文用書体、大きい表示の時は見出し用書体とかの切り替えができるといいのに
紺野:それは、今後文字だけでなく、ブラウザやデバイスといった部分の進化でカバーしていくと思いますが
祖父江:グーテンベルグの時代に印刷ができて本が「いつでも持ち歩ける」物になった。今、電子書籍で「本棚がいつでもどこでも見られる」時代になろうとしてる。すごい時代だし、こんな時代に入れてラッキーだと思う、

今後のスケジュール


紺野:新しい凸版フォントですが、今後のリリーススケジュールです。最後のゴシックがでるのが2016年の秋ですね
祖父江:まだまだこれから変わる可能性があるね
祖父江:凸版フォントのリニューアルは「また新しいフォントが発売されたね」というのではなく、ちょっと事件的なフォントだと思う。他に類を見ない設計のフォント。
田原:書物を読みやすく提供するというのが、我々凸版印刷の使命だと考えています。新しい凸版フォントにご期待ください。