ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

電子出版アクセシビリティの現状と課題

2017/10/24 JEPAセミナー「電子出版アクセシビリティの現状と課題」自分用メモ

情報アクセシビリティの現状とマイクロソフトの取り組み

スピーカー 日本マイクロソフト 技術統括室 大島友子

マイクロソフトアクセシビリティについて、まずMSのアクセシビリティ担当がどういう仕事をしている部署であるかについて。
アクセシビリティとは「アクセス」と「アビリティ」からきている言葉ですが「あらゆる人にとって使える」ということを目指している。

アクセシビリティ対応について、Windowsは初期バージョンの頃から、障害者の方から様々な要望が寄せられ、それに対応してきたという経緯があります。
テクノロジーによって、障害という困難を補完していくという形で、音声認識や、自動翻訳、複合認識などの技術開発をおこなってきています。
マイクロソフトのミッションはすべての個人と組織が、より多くのことを達成できるようにする、ということです。

「障害」と情報アクセシビリティを取り巻く状況について

昨年(2016年)4月、障害者差別解消法が施行され「障害を理由とした差別の禁止」とともに「合理的配慮の提供」が定められました。
「差別の禁止」というのはわかりやすいと思います。たとえば「この会社に入社したい」とか「この打ち合わせに参加したい」とかを障害を理由にして差別してはならないということです。
では、「合理的配慮」とは何か。
これは障害のある人からの申し出に対する対応について「その実施に伴う負担が過重でなければ、提供しなければならない」と定められたもの。
これまでは障害への対応は対応する側の善意で行うのみ(つまりやるかやらないかは対応側に任せられている)だったことが「過重な負担がなければ提供しなければならない」と法律で明確に定められたということは大きな意味があります。
過重な負担とは、障害者からの申し出に対して、経済的負担やそれを行うことによるメリットなどとの比較などによって、総合的に判断されます。これからは障害への対応について、関係者間の合意形成が重要になってくると言えます。

障害とは

以前は、障害といえば、体の機能の障害ばかりを言われましたが、今は社会モデル(社会環境側がその障害のある人の参加を前提としていないところから社会参加を妨げる)としての障害まで含めて議論されます。

情報アクセシビリティの法律について、米国ではリハビリテーション法508条で「障害のある人でも、障害のない人と同じように情報にアクセスできなければならない」と義務付けられています。
しかし日本ではまだアメリカほどはっきりと定められたものがありません。
ただし、教科書バリアフリー法などで「(障害のある人への対応を)提供してもよい」となっているので、教科書などでデジタルデータの提供をすることが可能になっています。。

今年(2017年)1月、EPUBを策定したIDPFがWeb標準技術を策定するW3Cと統合しました。
WebのアクセシビリティはWCAGで定められており、これは情報を得るためのアクセシビリティとして、EPUBなどでも重要になります。

情報アクセシビリティの話をすると、どうしてもコンテンツの話に偏りがちになりますが、情報(コンテンツ)を得るためのリーダー(端末)やその提供方法についても同等に重要です。

読むことの困難は色々ある

視覚障害、といっても全盲弱視、視野が狭いなど多様な状態があります。
印刷された文字が読めないなどの読字障害、ディスレクシアや、本を持ったりページをめくることが困難な肢体不自由、老化による目の衰えなど「読むことへの障害」は様々であり、こういった状況はいつ誰に降りかかるかわからない。アクセシビリティの問題は一部の人の問題ではなく、すべての人にふりかかってくる問題なのです。

マイクロソフトの取り組み
  • Word、OneNoteに搭載「イマーシブリーダー機能」

最新版にテキスト読み上げ機能搭載。Windows8から搭載されている音声エンジンで読み上げる。Edgeでも読み上げ対応。

  • Windowsでの読み上げ機能ショートカット

キーボードショートカットwin + ctrl + enter でナレーター機能が起動
windows自身の読み上げを行う
終了させるにはctrl + Alt + Escで終了

  • Windowsでの画面ズーム機能ショートカット

win + れ(+) で画面拡大 レンズ拡大や全体拡大などが選べる
ctrl + Art + L (レンズ)
ctrl + Art + F (全体)
win + Escで終了

これらのショートカットはWindowsの設定で「簡単操作」で設定できる


写真を撮った文書の台形補正→OCRを行うスマートフォンアプリ
読み込んだ書類をイマーシブリーダーに送ることができるのでそのまま読み上げ可能

  • UDデジタル教科書体

Windows 10 Fall Creators Updateで森沢の「UDデジタル教科書体」を提供
通常の教科書体は弱視の人にとって細い部分が読みづらい、ディスレクシアの人からの文字のはらい、突き出しがこわいという意見、しんにょうの形が手書きされるものと違って判別できない、といった意見をとりいれ、かつ学習指導要領にそった字形に対応。

カメラで撮影されたものに対して、言葉で説明してくれるアプリ
文字の読み上げはもちろん、その物がなにであるかを解析、判断して言語で説明してくれる
物の解析にはAIによる自動判断が使われている。


Q&A

Q SeeingAIのサービスについて、クラウド上動画データをあげて解析し、テキストにして返していると理解したが、例えばテキストから要約して手話動画に変換といった変換には取り組んでいるか

A テキストから動画に変換するサービスは今は表に出しているものはない。フォローレンズやバーチャルリアリティキネクトなど動きを捉えるという研究はしているがまだ成果をだせるほどになっていない


WordTalkerのご紹介

スピーカー イースト株式会社 柳 明生

WordTalkerはWord読み上げのツール
読み上げ機能は最新版のWordには標準で搭載されているが、それをさらに強化するプラグイン

インストールするとWordに「読み上げ」タブが追加され、様々な機能が利用可能に。

Q&A

Q 読み上げの際の日本語、英語の切り替えはどう区別して判断しているのか?

A 文字列での判定基準についてはHPにも載せているが、英語で読みたい部分について、半角スペースか改行で挟まれておりかつ、その間に日本語が含まれていなければ英語と判断している

Q 言語解析辞書などは利用していないのか?

A 辞書も使っているが一般的なもの。MeCabで解析している



デジタル化による視覚障害者の読書環境の向上と課題

スピーカー 慶應義塾大学 中根 雅文

自己紹介として、ほぼ先天的な全盲です。
ほぼ、というのはごく幼年期は見えていたらしいが本人まったく覚えていないので、ほぼ先天的な全盲と言っている。
私は、小中高と盲学校で点字で教育を受けました。
アクセシビリティの情報サイト、AccSellを主催しています。

今日は電子書籍アクセシビリティについての話をするが、主に全盲のユーザーが使う場合についての話。

最初にこういったセミナーで話すときに、私が手元で何を使っているかを説明します。まずスライドについてはGoogle スライドで作ったもの。以前はスライドなしで話していたのですが、聴講者から「なにか見るものがないとつらい」といわれて、それからとりあえずスライドを表示するようにしてます。
FireFoxで表示、スクリーンリーダーで読み上げて、その画面を点字化するソフトを使い、手元の点字ディスプレイで表示させてスクリーンに表示されているものを確認しています。
Googleスライドについてはなぜかスクリーンリーダーがタイトルしか読んでくれないので、別に原稿を作って、それを点字で読み上げています。


視覚障害者の書籍アクセス:電子書籍以前
  • 対面朗読

一番原始的なものです。もともとは誰かに読んでもらうしかなかった。現在でもアクセシビリティの確保されていない文字情報についてはこの方法がもっとも確実。
公共図書館などでは「対面朗読サービス」として、視覚障害者に提供しています。これは視覚障害者だけではなくディスレクシアの対応にもなっています。

書籍の内容を点字に(点訳)して提供。
もともとは点字も手書きで、紙を点字機の点字版に挟み込み、針で1点1点押し込んで作る。これ、手はかかりますが、みなさんが思うよりははるかに早く書けます。私はいまでもメモ書き程度には使っています。ただ、今は(PCなどを使うようになって)以前ほど早くは書けなくなりましたが。携帯つかうようになってみなさんが漢字忘れて書けなくなったというのと似てます。

その後点字製版という手法も普及しました。亜鉛の版に点字を彫ってプレスする。銅版画と似ています。原版を作るのは大変ですが、大量に刷ることできる。高校生の頃なんかは生徒会で配る資料なんかをこれで作っていました。今でも使っているところはあると思います。
最近ではPC上で点字データを作り、点字プリンターで出力する方法が主流になりました。いまでは手書きの点字本にはほとんど出会わなくなりました。

点字図書の問題点

まず、点訳者の不足、昔は手作業なので大変だった。今はパソコンになっているが、そもそも点字の書き方に習熟するのが大変というのがあって、なかなか増えない。
日本語の点字には仮名しかなく、ひらがなとカタカナの区別もない。
文節分かち書きを用いることで意味が理解できるようにしていますが、この文節をどこで分けるかも細かいルールがあり、一部普通の表記文字とは一致しないものもある。これらの規則が複雑なため、点訳者がなかなか増えない。

あと、点字の本は物理的にかさばります。
1冊の文庫本でも点字にすると6冊ぐらい、辞書などは大変なことになる。個人で点字の辞書を所有するということは、書庫の一角にすむようなもの。

原本の内容を朗読したものを録音して提供。アメリカで始まったときはアナログ・レコードやソノシート。やがてカセットテープへ移行。
私が1980年代にアメリカに行った時、ソノシートは現役でした。どういったものがソノシートで提供されていたかというと、雑誌などの録音はソノシートだった。

1990年代中頃移行にDAYSY形式が普及。日本でも一気にひろまった。
音声データとメタ情報で構成され、原本のページ情報、見出し、段ラック、センテンスといった文書構造の情報を提供可できる。ちゃんと作ってあれば、目次から目的の章への頭出しなど、それまでカセットではできなかったことが可能に。ただし、できるからといってちゃんと作るかというとそこは別の話ではあったが。

点字図書、録音図書での図表、写真などの扱い

基本はテキストオンリー。点図という点で表現した図もあることはあるが、簡易のもの。
点訳者、音訳者が図に対する注釈を挿入することが多い。
以前はそういった部分はばっさりと省略されることも多かった。注釈で「図は略」とか。本文で「写真がうんぬん」とあるのにその写真についての説明が一切ないとか。

点字図書、録音図書共通の問題点

点訳、音訳にはそれなりに技術と経験が必要。特に音訳はアクセントなどを正しくするのはもちろん、音訳者の解釈が伝わってはいけない(なるべく無感情によむ)が70年代80年代は感情ゆたかな読み手もいたり。
点訳も音訳も原本発売からのタイムラグがかなりある。直木賞受賞作などは早いが、専門書などはそもそも翻訳されない。

翻訳された本も、個人で所有できることはまずなく、限られた部数の点訳、音訳本を各都道府県にある点字図書館などをとおして借りていた。
限られた数しかないので、視覚障害者で取り合いになっていた。

点字図書、録音図書の電子化

現在はパソコン点訳が一般化。一度つくったデータを何枚も複製できる。
録音図書DAISYの普及によりデジタルデータとなりコピーも簡単に。
その後インターネットの普及で、状況はますます改善。PC上で点訳された図書データを集約する「てんやく広場」というシステム。IBMが中心に1988年社会貢献事業として開始。ただし、当時はパソコン人口も少なく利用者も少なかった。現在はSAPIE(サピエ)という名称でサービス継続、インターネットへの対応と個人でも利用できるようになったことで直接点字データをダウンロードして手元で読むユーザーが増加。
入手したデータを点字ディスプレイや点字プリンターを利用して読む場合もあるが、仮名テキストに変換して読み上げアプリを利用するユーザーも。

録音図書利用環境の変化

当初は専用の機器が必要だった。
SAPIE以降、SAPIEで提供されるDAYSYデータを手元の専用機器やPC、スマートフォンで再生できるように

電子書籍視覚障害

1990年代の電子ブック登場時から、視覚障害者が電子ブックによせる期待は大きかった。
特に辞書は、点字での辞書がものすごくかさばってしまうなど所持するにはハードルが高かったことから電子化で飛びついたユーザーは多かった。
OCR技術が向上したことで書籍の「自炊」による電子化を行う人も増えたが、スキャンのめんどくささと、バラした本の順番がわからなくなってしまうと大変という問題がある。

Kindle登場

2007年11月に米アマゾンがkindle発売
当時は視覚障害者にアクセシブルではなかったため、改善を求める声が視覚障害者からあがった。

2009年TTS(text to speech)への対応。ただし、端末の操作メニューなどは音声化されず。

2009年、Amazon教育機関へのkindle導入の試みに対して、視覚障害者団体などから、障害者への対応が不十分として訴訟がおこる。
米ではWebサイトのアクセシビリティを巡っても、障害者への対応が不十分であると訴えられるケースが多く、対応不十分とされると政府への導入などにも支障が出ることから、電子書籍アクセシビリティ訴訟に対してアマゾンは真摯に取り組む必要があった。

Kindle書籍の問題点

図表や写真は基本的にアクセシブルではない

EPUBへの期待

EPUBの書籍には、文書構造を適切に埋め込むことができるため、Web上の文書と同等のアクセシビリティーを確保することができる
ただし、文書構造が適切に埋め込まれているかどうかは製作者次第。また、リーディングシステム側での対応も必要。

スクリーンリーダーでの漢字の扱い

1文字ずつ確認する場合とまとめて読む場合で読み上げが変わる。
詳細読みで文字を識別。最悪文字コードを頼りにその文字について調べることができる。音声リーダーがめったにつかわれていない字に対応していない時がある。その場合、文字コードで調べる。
当然だが外字はお手上げとなる。

アクセシブルな電子書籍とは

重要なのは過不足なく情報が伝わること。最近では不足なく情報を伝えることは心がけられているが、過分な情報提供に対する意識は弱いと感じる。
書籍を読んで読者が解釈しないといけない内容は、活字書であれ電子書籍であれ、障害者であれ健常者であれ、基本的に同じになるべき。
たとえば、1/2という表記。これは「いちすらっしゅに」と読むべきだと思うがこれをリーダーが「いちがつふつか」「にぶんのいち」と読んでしまう。
「いちすらっしゅに」を「いちがつふつか」なのかを「にぶんのいち」かを判断するのは、読み手側に委ねられるのがよいと考える。
ただし、これは視覚障害者の読書での話であって、ディスレクシアなど障害の種類によっては考え方は変わる。なので、どちらで読み上げるかはリーダー側で設定できるようになるとよい。

視覚障害者は「正しくない読み上げ」には慣れているので、「正しく読み上げられる電子書籍」にこだわるよりも、正しく文書構造が伝わり、図や写真などの非テキスト情報が適切に伝わるようになっていることの方がはるかに重要。

読み上げの正確さについては、今後音声合成の進歩はSSMLなどの技術での改善が期待できるので、制作側は正しく文書構造を設定するといった点により注力してもらいたい。

電子書籍の登場は視覚障害者の読書機会を増大させている。
現状ではkindleがほぼ唯一の選択肢であるが、少なからず改善すべき問題があるため、この点で勝る電子書籍が増えれば、視覚障害者の読書環境はよりよくなる。



【感想】

電子書籍アクセシビリティについて、JEPAでは定期的にセミナーがあるが、障害者差別解消法の施行などで、障害を取り巻く環境はここ数年目覚ましく変化しているように感じられる。
機能的な視覚障害だけでなく、ディスレクシアなどのいままで存在すら見えていなかった障害が一般的に認知されつつあり、その対応としても、電子書籍が重要になってきている。

しかし、視覚障害の方が書籍などを音声読み上げで読むのを聞いていると、私にはとても聞き取れないようなスピードで音声を聞いていて、ひょっとすると普通に目で読むよりよっぽど早いのじゃないかという気がするな…