ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

JEPAセミナー フランクフルトブックフェアの電子出版

JEPAのセミナー「フランクフルトブックフェアの電子出版」を受けてきました。

フランクフルトで行われたブックフェアでの電子出版関連報告という事で、報告された内容がなかなか面白かったのでレポートを。
JEPAのセミナーはだいたい当日の資料や映像などが公開されるのだけど、残念ながらこのセミナーは、資料も映像も公開されていないようですこのセミナーも資料公開されてました。こちらから
なので、このレポートは私の手書きメモからかきおこしたものです。もしかしたら内容に聞き間違いなどがあるかもしれません。


フランクフルトブックフェアとは?
コスモピア 坂田由子

もう15年ぐらいフランクフルトのブックフェアに参加しているという坂田由子氏より、フランクフルトでのブックフェアの概要説明。
ブックフェア自体は世界中で開催されるが、フランクフルトのブックフェアが規模、参加者数としては最大クラス。参加者数約28万人、出店社数約7200社、参加国約100カ国。

会場は大変広く、各展示エリア間は送迎車での移動。
参加者は出店社のブースで打ち合わせをするが、大手ブースは飛び込みでは話も聞いてもらえない。あらかじめ打ち合わせのアポイントをとっての打ち合わせとなる。
この期間の印刷コーディネーターさんのスケジュールは30分刻みの打ち合わせスケジュールでびっしり。実質各ブースでの打ち合わせ時間は20分程度。


日本からの出展社について。

大日本印刷は他の日本企業と同じ6号館で出展。
パネルなどを展示していたが、テーマ等はいまいち伝わらず、おつきあいででているのかな?という感じだった(坂田さんの撮影したブースの写真をみるに、日本での電子出版EXPOでのパネルをそのまま展示している感じ)

凸版印刷は8号館で展示。
こちらはビジネスをするぞという意気込みがあるようでしっかりプレゼンをやっていた(こちらはBookLiveのロゴが映った写真。多分そのあたりを中心に展示を行ったものと見られる)



IDPFイベントと電子出版最新事情
ベネッセ 阿部 健二、桑野 和行

ベネッセの阿部氏、桑野氏からのレポート

ベネッセといえば通信教育などの会社だが、最近は教育教材でも紙に印刷したものだけではなく様々な媒体で提供している。
たとえば、来年には中学生向けの展開でタブレット端末での「チャレンジ・タブレット」を導入する予定。本体価格は9,500円。アンドロイド・タブレットで12ヶ月連続の受講で本体価格は無料になる。
教科コンテンツはXML化し、紙面の自動組版はもちろん、XMLからの多展開を狙っている。XMLのオーサリングツールやデータベースなども自社で開発したツールをもっている。

今後印刷以外のデバイスへの対応が必要になってくるが現在の課題として
・各メディア・タブレットへの対応の負担
・制作コストの増大
電子書籍など分野ではコミック・文芸といったいわゆる「売れるコンテンツ」のところから技術化が進む
・数式、多重下線などの複雑な(教育コンテンツには必須の)組版技術はなかなか確立せず、遅れている

こういった問題が、今後EPUB 3のような技術の標準化で解決される事に期待している。


ブックフェアでも電子出版やXMLソリューションなどを中心に回ってきた。


見学したブースの紹介

  • JOUVE社(仏)

フランスの制作会社、中国、インド、アフリカなどにも拠点を持つ

iBooksでの日本語表示のデモを展示してあったが、コンテンツが以前どこかで見かけたようなものだったため、これがここのオリジナルのものであるかは確認できず。

EPUBの制作は自社ツールでPDFから作成しているとこのと。ただし詳細については「契約したらお話します」との事で聞けず。
EPUB 3の制作も謳っているが、まだテスト中であり、制作実績はないとのこと。クライアントからEPUB 3でのオーダーがきたことがないということで、現在EPUB 3制作のロードマップなどはない。
EPUB 3については、ちゃんと表示できるビューワーもまだないから、との事。

自動組版のソリューションとしてWordからPDF、XMLEPUB他の変換
デジタル教科書の作成としては、InDesignデータを人力で変換しているよう

  • Acolada社(独)

ソリューションベンダー

自社でCMSの開発を行う
XMLからのInDesignの多言語組版処理。InDesignからの情報の書き戻しも可能。サムソンの多言語カタログなども手がけている。

数式組版はDesign Science社のMathflowを利用して、MathML(数式定義のためのXML)からのEPS変換で作成している。(Mathflowを利用しての数式組版の実例は珍しい…らしい?)

  • Pagina社(独)

制作会社

XMLから自社プラグインを使用してInDesignデータの生成を行う。
EPUB 3については、特に必要ではないという意見。EPUB 3で採用されたような表現はiBooksを使えばすでに表現可能であるから、わざわざEPUB 3にする必要がない。
EPUB 3について、クライアントからも特に問い合わせはない。

(企業紹介というか、こういった表示がありましたよという紹介で)
インドの人口についてはいずれ中国を抜くといわれているが、その膨大な人口を活かして、人海戦術でのデータ作成を行っている。
インドでの電子書籍制作の単価表というのがあったが、とにかく人口が多いので安い。
レイアウト1ページで1.4USドル、EBOOKの変換で0.25USドル、読み上げデータの作成は12.5単語で1.25USドル

だいたい100円ぐらいで一ページが作成されてしまう。
残念ながら(幸いなことに?)日本語の組版には対応していない。

バイスについては、どこかにまとめてあるというより、各館のあちらこちらに点在していたためすべてを見てきた訳ではない。

あちこちに大きなディスプレイ広告などがめだった。立体的なディスプレイ広告については、他の企業のものなどはあまりなくkoboのものしかなかった
9月発表の新機種などの展示。

  • txtr

変わったところでは'txtr社の9.90ユーロ端末「txtr Beagle」
1000円を切る電子書籍バイス

端末単価はもっと高いが、携帯電話キャリアと組んでそこからマージンをもらうことで、この価格での販売ができるよう。(携帯端末の割引と同じ)
機能はシンプルにRead Only。
OSやビューワーなどは入っていない。シンプルに画像(ビットマップ)を表示する”だけ”の端末。
レンダリング処理などのコントロールは、端末に組み合わせた携帯端末(のアンドロイドアプリ)側に任せ、Bluetoothで接続して表示するだけ。
単4電池4つで動く。(携帯スマートフォンむけのサブディスプレイに近い)


<まとめ>

  • バイス系は「低価格化」「多様化」が進む。サイズやディスプレイなど様々なデバイスが登場。

低価格化の流れで、E-Inkの注目度があがっている。低価格化を狙おうとすると、E-Inkをつかったディスプレイの単価が安いため。
リフローコンテンツの重要性があがりつつある。

  • XML First、という考え方が浸透しつつある。XMLから各フォーマットへ使い回す
  • フォーマットはEPUBがあたりまえに普及。

EPUB >> KF8(Kindleフォーマット)>> PDF >>独自フォーマット、という感じ。
当たり前だが、日本メーカーの独自フォーマットなどは影も形もない

  • EPUB 3は全然普及していない。メーカーからは「作ってくれと言われない」「まともに表示できるビューワーがない」といった声

欧米ユーザが、EPUB 3に期待するものは、今後制定される固定レイアウトEPUBの方ではないかと感じた。


【感想】
個人的にはベネッセさんが色々なデバイスでの制作をやっているというのが興味深かった。「チャレンジ・タブレット」でオリジナル端末配っちゃうとか。こういう企業カスタマイズのデバイスってのも今後でてくるよねーと。

フランクフルトブックフェアレポートは、欧米の電子書籍市場が知れて面白い。
EPUB 3は縦組み再現ができるということで、日本ではこれでやっとEPUBを利用できる…という感じで盛り上がっているのだけど、欧米ではEPUB2で事足りるということもあって、関心が薄そう。
EPUB 3対応ビューワーがないというのは日本でも言われているのだけど、この感じだと対応ビューワーもなかなかでてこないのでは…。いや、もちろん日本で独自につくってもいいんだけどさ…。

バイス系は、低価格化で電子ペーパー系端末が盛り返している模様。確かに書籍よむだけならE-Inkでいいしな。
電子書籍バイススマートフォンとかのデバイスより多様化しつつあるのかなという感じ。

あと、インドの人件費は恐怖。日本語対応とかされたら勝てない、勝てないわー。