ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

JEPAセミナー「使える? 使えない? 権利処理の境界線」

JEPAセミナー「使える? 使えない? 権利処理の境界線」〜事例で考える権利処理の課題〜を受けてきました。自分メモ用レポート。
スピーカー:株式会社マイクロコンテンツ 鈴木道典  用賀法律事務所 弁護士 村瀬拓男

セミナー内では該当の書籍の画像も表示されたが、さすがにここに表示していいとは思えないので非掲載)




既存書籍の電子化にあたり、煩雑な権利処理が発生する場合がある。
事例を元に、どういった場合に問題になるのか、電子化の際の権利処理の課題と対策について。

ただしい引用とは

著作物の中の引用について、後々になって問題になるのが嫌だから、となんでも許諾を求める傾向があるが、正しい引用であれば、許諾をとる必要はない。


引用の要件 公表された著作物、明瞭性区別、主従関係、出所明示、著作物で引用。
引用の要件のなかで大切なのは「主従関係」と「明瞭性」
引用とは主に学術論文の中でつみあげられてきたルールである。論文とはまっさらな1から書かれるものはあまりなく、過去の論述に積み上げていくものである。先人の許諾を得ずともその文章を使うことができるのが引用である。

論文においては、まずその引用に対して「言いたいことがある」ということが大前提となる。
「新しく言いたいこと(主)」に対して「これまで言われてきたこと(従)」をだす、主従関係がはっきりしていること。
主従の表示上の区別がはっきりしていること(明瞭性)。
「これこれこう言われてきた」として引用するものは文章でも写真でも図でもなんでもよい。
主従は分量の問題ではない。主の分量が従よりはるかに少なくても問題はない。

近年の裁判例では、著作物として使える範囲、権利制限規定に当てはまらないものをむりやり引用として処理したりする例もあるが、あまりあたらしい判例をみるとわけがわからなくなる。
例えば鑑定書の裏にその絵画のコピーを貼ってあるといったところの権利処理をするのにこれを引用として無理やり解釈するといった判例

著名人の写真の引用

マドンナの写真が引用された書籍、これは引用として判断されるか
まず、文中に写真についての具体的な論述があれば引用として判断できる。さらに引用されている分量が正当な範囲であるかどうかという判断。
ただし、文章と違い、写真や絵の引用はそれ自体が独立して鑑賞の対象になると判断されると微妙になる。

この例においては、写真のサイズがやや大きい(紙面の3分の2を占める)のが気になる。
4分の1以下の大きさにとどめる、カラー写真であるならモノクロにするなどの工夫をしたほうがよい。

裁判をすれば問題ないと判断されると思うが、そもそも「最終的に裁判で勝てればよい」のか「クレームがくるのを避ける」のかという二つの立場がある。
法律上問題ないということと、クレームがこないというのは別であり、クレームを避けるというのを第一におくなら写真、絵画のサイズ、分量は気をつける

引用の改変について

引用の基本は「それまでに言われた考えなどを出す」ためのもの。そのものを改変しては意味がないので、引用は元の著作物をそのまま使う必要がある。
ただし、測定データを図表化したというようなものには著作物性はないため、これは引用に当たらない。そのため改変しても問題にはならない。

データやグラフ、地図といったものに著作性はない

しかし、例えばミシュランの星の数といったものは著作物にはならないが、そのデータを持ってきて商用利用するということは別の権利侵害にあたる可能性があり、著作権の問題ではなく、不法行為となる場合がある。

引用か転載許諾か

漫画を数コマ掲載した例、この場合引用でよいのか転載許諾が必要か

「引用」は何かを証明するためという主従関係がないと引用と言えない。
例であげられた漫画のコマの場合、このコマの内容と文中で指し示す事例が関わりがあると判断されれば引用でよい。
しかし、関連はするがそれでなければいけないという結びつきがないものは引用にならないので転載許諾が必要となる。
(例として、4コマ漫画、映画のカットワークを参考にしたと解説されるコマ割りは引用でよしとされた。他の掲載例で、文中で話すテーマについての4コマ漫画を載せた例は、関連はあるがこれでなければならない結びつきがないとして、転載許諾が必要とされた)

新聞記事の引用

新聞記事にも著作物性はある。
ただし、著作物性があるとされるのは、感情を起こさせるような部分のみ、事実の伝達にすぎない時事報道内容は著作物にならない。
つまり事件の詳細をつたえるにあたり、感情を誘導するような見出し部分については著作性が認められる。

新聞記事を整理して事実を記載するのはOKだが、新聞記事の見出しを羅列してコンテンツを作るのは著作権の侵害にあたる可能性がある。

写真の著作権 人の場合

写真の著作権はまず撮影者にある。撮影された被写体が人である場合、人格権に基づくパブリシティ権があるが、人ではないものの場合パブリシティ権はない。
パブリシティ権、ピンクレディの裁判で有名だが、撮影されたものに顧客誘引力がある時はパブリシティ権を考慮するが、一般の人については経済的な価値はないとする。
肖像権はだれもがどんな時でも認められるものではない。
たとえば、写真において政治、思想、信条などが推測されるのが不利益があると判断されるような場合は考慮される。
渋谷のスクランブル交差点で撮影されることには不利益はないと判断されるが、道玄坂カップルで取られたとなると不利益があると判断される可能性がある。

写真の著作権 所蔵者の場合

建物や絵画、彫刻、仏像といった物品の写真に対してその所蔵者の権利はどうなるか
基本的には、所蔵者には著作権はないが、ほとんどの場合、写真を撮影したときの条件に絡んでくる。撮影時にどういった条件で撮影したかによって所蔵者の権利が変わる。

写真の著作権 立体物と絵画

彫刻、仏像など立体物の写真についてはアングルやどの部分をきり出すかといった違いにより写真が著作物として認められる。
しかし、絵画を真正面に撮ったものについては著作物としては認められない。

写真の著作権 フォトストックの写真

例えば浮世絵の写真といった著作権の切れたものでも、フォトストックなどから借りて利用する場合、利用料が発生する。
電子化の再販の場合、再利用料を支払うことになるが、通常、最初の使用料の7〜8割程度を要求される。
最初に数千、数万を作成する紙の印刷物と違い、電子の場合はとてもその再使用料を払うことができない。、これから制作、印刷される書籍については電子化まで含めた料金で契約されていることがほとんどだが、古い書籍についてはそういった契約がないため古い書籍の電子化の壁となっている。

写真、イラスト、絵画の著作権 誰が著作権者か不明なもの

人物写真、風景写真など、誰がとったか不明な写真の扱い。
本来は、文化庁長官裁定にて裁定を受けるのが必要であるが、非常に手間(とお金)がかかる。

個別での判断になるが、問題がないと判断したものについては、そのまま使ってしまい、著作者からの申し出があった時点で個別対応するというやり方を取らざるをえない。

問題がないという判断は、まずパブリシティ権、顧客誘引力があるかどうかの判断。経済的価値があるかどうかで判断される。

イラストや挿絵については、署名があるものは調べるが、載っていないものについては調べようがない場合もある。
そもそも書籍の電子化において、一度紙の書籍になっているということは、書籍化される際に許諾をとったということである。
一度許可したものに対して電子化だと「No」を出す人というのはそれほどいない。
それを前提に考えると、著作権者不明のものはそのまま使ってしまい、著作者の申し出を待つというのもあり。

装丁デザインの著作権

装丁デザインについては許諾は必要ないとしている。
電子化を前提に作るものについてはそれを含めて費用何割マシかで作る場合もあるが過去の本の電子化については装丁デザインの許諾はとらない。

装丁デザインには著作権はないと考えられるが、装丁の中に使われているイラスト・装画には著作権が発生する。ここには許諾が必要である。

ここでの許諾は、電子化において、電子データの一部として装丁(表紙、表紙裏、見返しその他)が含まれることを指している。
販売用サムネールとしての装丁利用は、中身の同一性の保証として、商品流通のためのパッケージとしての利用の共通認識とされていると考える。(つまりサムネール利用については許諾は必要ない)


会場とのQ&A

Q (マドンナの写真例において)4分の1以下の大きさにとどめる、カラー写真であるならモノクロにといった話がありましたが、この場合写真の同一性保持の侵害にはならないか

A 同一性保持の侵害の部分はあるが、4分の1以下の大きさにとどめる、解像度を下げるといった規定はサムネイル利用を定めた基準としてある。法律にサイズや解像度を下げることを許容する規定があるということは、同一性保持をそこまで重視しない

Q 引用としての重要度に主従関係とあり、従がこれまで言われてきたことで、主が新しく言いたいことであると言われたが、教科書などでは主が新しいことと限らず、従来言われてきたことを言うために引用するがこれはよいか

A 主、新しいとは新規性をいうものではなく、まとめなおす、説明し直すといったものも含む。つまり、書き手の言いたいことというのが主。
まとめ直すとは、書き手が言いたいことが入っていなければならない。つまり、まとめサイトのように、いろんな発言を集めて並べただけのものは引用とは言えない。まとめ主が言いたいこと、というのが入っていないため。


Q 単なるデータについてのグラフ化は著作物ではなく、改変にも当たらないとあったが、著者がフィールドワークで独自に集めたデータであっても著作物にあたらないか?

A 著作権法上の著作物は、かいた汗には比例しない。どんなに苦労して集めても、集めたデータは著作物にはならない。
ただし、集めたデータは著作権意外の法的保護がある可能性があるので、その先人の努力にただのりする(集めたデータを勝手に使うなど)は著作権の問題ではないが、他の不法行為となる場合がある。

Q 引用部分の明瞭性、区別性とあったが、紙面においては段下げなどではっきり区別できていた部分が電子化でリフローになると段下げが認識しづらくなることがある、この場合は。

A リフローであり版面が固定できないのであれば、鉤括弧でくくる、フォントを変えるといった他の形で対応する必要がある。電子化に合わせてデータを改変する必要がある

Q 電子化復刊の際、権利侵害をしてしまった場合、その責任は著書にあるのか、それとも電子化した出版社にあるのか

A まず、出版社はその責任を免れることはないと申し上げる。頒布している以上、権利侵害を放置したということで、そこの責任は免れない。

Q 写真に写り込んでしまったものに対する著作権は発生しないとあるが、この偶然写り込んだという判断はサイズとか考え方はあるか

A 軽微な構成であるとか、どのぐらいクリアかは総合判断の要素ではなるが、相対的な全体で判断される



【感想】

既存書籍の電子化の際に一番問題になる「権利者が見つからない」問題。法律的にはどう対処するのかな…とおもったら「とりあえず作ってしまって、申し出があったら対処する」という、至極現実的な回答でありました。

それと、レンタルフォト類の使用料問題は出版社側がかなり苦労していそう。
電子書籍での再利用時の料金、多分レンタルフォト側もそんなに深く考えずに請求しているのでは…という価格。
紙の出版物とは部数も金額も違うものであるという前提の料金にしてもらえないと過去出版物の電子化はハードルが高い。