ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

TypekitのDTP利用には注意が必要

Adobe CCのTypekitについて、jdashさんのサイトで取り上げられてました
忘れていませんか?Creative Cloudで使える日本語フォントは、なんと80種類!《フォント名のリスト・イメージ付》


Adobe CCのTypekitで日本語がいっぱい使えるから使おうよー!っていう話題です。


…うん、いいんだけど、うん…困る…。


Adobe CCのTypekitについてチョット困ったことになったなーってのは以前、サービス開始のニュースが出た頃にTwitterの方でつぶやいたりしてたんだけど、まぁまだそんなに入稿ないし、今回困るっていうのはかなり内部的な問題だしなぁと放置してた。

モリサワ モリサワグループ書体をAdobe Creative CloudのTypekitに提供開始モリサワおよびタイプバンクの20書体


モリサワTypeKit対応のニュースにうろたえる私

でも、こういう風に話題になると「お?使ってみようかな?」って人も増えるかもしれないので、やっぱりちゃんと注意を書いておこうと思う。

TypeKitが(DTP的に)やばい理由

まず、これは印刷会社の内部的な事情ではあるんだけど、印刷会社によってはAdobe CCを外部ネットワークに繋げない形で使ってます。
つまり、Adobe CCをエンタープライズ契約でカスタム契約すると、ネットワークに繋がない状態で使えるAdobe CCというものが手に入るんですね。
そういう状態でAdobe CCを使っている印刷会社がどのぐらいあるのかっていうのは、私にはわからないけど、多分ある程度以上のライセンス契約数がある規模の印刷会社はみんなやってるんじゃないかと想像。(あと、ライセンス契約数の少ない中小規模の印刷会社でも、なんか印刷連合?組合?みたいなのを通して共同購入することでエンタープライズ契約Adobe CCを手に入れてるという話も聞いたことある)

で、この外部ネットワークに繋がないAdobe CCだとTypekitは使えません。

そして、TypeKitで使われたフォント、作成側でInDesignのパッケージ機能をつかってもそのフォントは収集されません。
ネットワーク越しに使ったフォントはローカルに落とすことができないわけです。
なので、あなたがTypeKitを使ったデータを入稿する時、そこにフォントは付属しません。(PDFで埋め込みしている場合を除く)

Typekitのフォントはパッケージでの収集がされないので、Typekitのフォントを使って作られたデータが入稿しても、印刷会社側ではTypekitが使えず、そのフォントがない!って状態になります。
もちろん、Typekitが使えなくても、印刷会社のマシンローカル側にそのフォントが入っていればいいのだけど、実はそんなに簡単じゃない。

Typekitのなかでもやばいフォント

Typekitには今回対応したモリサワフォントを始め、たくさんのフォントがあるわけだけど、そのなかでも、DTPで使っていいフォント、使わないほうがいいフォントがある。
これを「使わないほうがいいランキング」的に表示すると

1位 欧文フォント
2位 Adobeの日本語フォント
3位 タイプバンクフォント
4位 モリサワフォント

って感じではなかろうか。

4位 モリサワフォント

Typekitのモリサワフォントに関しては、ほとんどの印刷会社がPASSPORT対応している(つまりローカル側にフォントを持ってる)だろうし、今回対応したフォントもごく一般的な基本書体のみなので、使用してもまず問題にならないと思われます。

3位 タイプバンクフォント

タイプバンクフォントは同じくPASSPORTで提供されているフォントだけど、タイプバンクPASSPORTは別契約になるので、もっていない印刷会社も多そう。

2位 Adobeの日本語フォント

Adobeはりょう、かづらきはPASSPORTなどに入っていないフォントなので別途購入、源の角ゴシックはダウンロードする必要があります。
しれっと混ざっている源ノ角ゴシック、実は一般的なDTPフォントの規格であるAdobe-Japan1との互換がないので、うっかり切り替えて字形が変わったりする可能性があるのも要注意。

1位 欧文フォント

堂々の1位は欧文フォント!
TypeKitでは日本語フォント以上にたくさんの欧文フォントが用意されています。
「すごい!使いたい!」って思う人多いでしょう。
でも、TypeKitに登録されているフォント(多分あえてそうしてあるのだと思うのだけど)市販の欧文フォントパッケージAdobeFontFolioなどには含まれていない新しいフォントが大半なんです。
つまりTypeKitの欧文フォントを全てローカルに持とうと思ったら、一つ一つ欧文フォントを買い集める必要があります…。

これ、日本語フォントなんかよりよっぽどお金かかります!無理!全部買うとか無理!

ネットワークに繋げない理由

「いや、そんなん印刷会社がネットワークにつなげてTypeKit使えばいいやん」

というか、TypeKitはユーザーIDでの利用が前提だから、ユーザーIDのないネットワーク認証しないCCだと使えないって事なんですけど、そもそも何故、外のネットワークに繋いでいないのか。繋ぐとセキュリティ上問題があるからですね。
印刷会社が扱う印刷物の中には超マル秘重要データもありますし、出力現場に繋がっている出力機なんかも下手に外に繋いでウイルスなどにやられたら洒落にならない。そもそも印刷データを作るだけなら外に繋がっている必要ない。だから繋いでいないのです。
TypeKitのためだけにそこに穴をあけるというのはかなり難しい話です。(もちろんTypeKit用にネットワークを別にしたマシンを用意するとかそういう方法はあるでしょうけど…)


TypeKitの使い方

「じゃあせっかくTypeKitあるのに使えないの?」

そんなことはないです。
まず「うちはTypeKit使えないよ、困った!」っていうのは印刷会社の中でも特別な事情があるところだけであるということ。
なのでまず、ご利用の印刷会社に「TypeKit使って大丈夫ですか?」と問い合わせてください。「もちろんOK!」っていう印刷会社だってたくさんあると思います。(むしろ上記理由から大手であればあるほど使えないような気がします…)

「うちでは使えません!」と返答された場合、PDFに埋め込んで入稿するという手があります。
この場合、修正その他印刷会社では一切行わない完全データとして入稿するという条件になります。

もしPDF入稿もできないとなったら最終手段は「アウトラインとる」ですね。
図形にしちゃえば無問題!TypeKitも使い放題です。

いつか解消するのか?

せっかくのTypeKitサービス、使えない状態なのはもったいない…いつかこの状況が解消することはあるのでしょうか?

解決方法の一つとしてはAdobeがTypeKitフォントのパッケージ収集を許可してくれることですが、どうやらTypeKitのフォントがローカルにコピーできないのはTypeKitにフォントを提供しているメーカーとのライセンス契約の縛りによるものらしくこの状況が解消されるのは難しそうです。

では印刷会社側がAdobe CCを外部ネットワークに繋いだ環境を用意するか?
今後Adobe CCでTypeKitを使った入稿がすっごく増えたら可能性はある…かもしれません。が、現状AdobeCCの入稿ってまだまだ少ないので印刷会社が対策するには時間がかかりそうな気がします。

スマートな解決としてはPDFの完全データ入稿(フォント埋め込み)に移行するっていうのが一番なんですが、何年も前からこうなってほしいと願っている、この解決策が上二つの解決策よりはるかに難しい気がするのはなんでなんだろうな!


まぁ今回の話は自分でもどうかなと思うぐらい「そんなん印刷会社の都合やろ」って話なんで「こんな事情なんっすよねー…そのへん汲んでもらえませんかねー(へこへこ)」って低姿勢でお願いするよ!
でも「わしが金払うたシステム全部つこうて何が悪いんや!金ならあるんや!出してみせんかい!」ってお客様に札束で顔はたかれたらもうすぐにでも環境整えて対応すると思いますんで、
札束でぶってくれるようなお客様、お待ちしております!