ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

Adobe CS5.5セミナーに行ってきました。その2

Adobe CS5.5セミナー。先日も行ったのだけど、また別の日にあったので行ってきました。


まずは会場でお約束の「使用バージョン調査」。今回は使っているIllustratorのバージョンを挙手で。
v10以前の使用者は0、CS1少数、CS2やや有り、CS3多い、CS4、5少数って感じ。
v10以前は0かぁ、ついにIllustrator 8ユーザーはいなくなりつつあるのかしら。それともたまたま?
さすがに、CS5.5を既に導入しているユーザーは会場内には0だった。


セミナーのスピーカーはAdobe のI本氏。
セミナー冒頭で「前回のバージョンCS5から1年での新バージョンリリースについて「1年でだしやがってふざけんな」というような声も聞いておりますが…」と挨拶。まったくそのとおりだよね!


今回のセミナーは、参加者に対する事前アンケート(セミナー申込時のアンケート)があったのだけど、セミナーに期待する内容として「電子書籍関連の情報が聞きたい」という声が多かったそうで、そこを中心としたセミナーでした。


Adobe Digital Publishing Suiteについて


電子書籍に関する情報中心ということで、やはり説明のメインはAdobe Digital Publishing Suite。
前回のセミナーではとにかく料金体系の事しか頭に残らなかったので、今回はもう少し中身について。


ADPSが狙う市場は?


ADPSがターゲットとするのは、ビジュアル的要素の多いもの、リッチコンテンツエリアの出版。主に雑誌がメインターゲットとなる。
Book(書籍)に関してはEPUBでカバーする。
カタログ.マニュアルといった分野にも今後対応していく予定


InDesignを使うADPSワークフローはCS5でも可能。

InDesignでドキュメントにインタラクティブな要素を追加(リッチコンテンツ化)→ADPSサーバにアップ。っていうのがADPSワークフローの一連の流れなのだけど、このInDesignでのリッチコンテンツ化のところについては、実はInDesignCS5でも可能。

InDesignCS5に Digital Publishing Suiteの機能を追加するアップデートがAdobeから配布されているので、これを入れるだけ。

ADPS使いたいからってCS5.5を買う必要はないってこと。


ADPS、無料でどこまでできる?


ではそのADPS、どこまでなら無料でできるのか?


(1)InDesignによるリッチコンテンツ化 …無料

いわゆる書籍データを作るところ。紙面にインタラクティブな動作を付け加える部分。
InDesignでOverlay creatorを使って、ボタン、ハイパーリンク、動画の埋め込みといった編集作業をおこなう
Overlay creatorは無償ダウンロードできるので、この行程は(CS5以上をもっていれば)無料でできる。


(2)クラウドサービスAcrobat.comへの登録 …無料

InDesignで作成した電子書籍ファイル(.Folioファイル)をADPSサーバにアップロードするためにはAcrobat.comのアカウントが必要。
Acrobat.comは要はAdobeのやってるオンラインストレージサービスなんだけど、登録すると、2GBのストレージエリアがもらえたり、ビデオチャットできたり(ただし同時にチャットできるのは2名まで)というサービスが使える。
正直、あんまり活用されているとは思えないサービスなんだけど、元々はPDFのスムーズなやり取りとかそういう為にはじまったサービスではなかったっけ。

で、なぜかADPSのサービスを使うのに、このAcrobat.comのアカウントが必要。

なんでADPSで電子書籍をつくるのにAcrobat.com?というと「Acrobat.com用のサーバやインフラはすでに各地に整備されているので、それをADPSでも流用した」という事らしい。
それにしても、なんか、こう、間に合わせ感というか、ありあわせですませましたという感じが…。

Acrobat.comのアカウントは無料でとれるので、この行程も無料。


3)InDesignからFolioBuilderを使ってAcrobat.comのストレージエリアに.Folioファイルをアップロードする …無料

InDesignのFolioBuilderパネルから、Acrobat.comに.Folioファイルをアップロードする。

FolioBuilderも無償ダウンロードできるので、この行程も無料。

アップロードされたファイルはiPadなどに入れなくても、Adobe Viewerをつかって、プレビュー確認できる。Adobe ViewerはAppStoreで無償配布されている。

InDesignでOverlay creatorを使って作成した電子書籍データ(.Folioファイル)は、一度Acrobat.comにアップロードしないと、プレビューすらできない。(と、いうか.Folioファイルはローカルには作れない)
ベータ版の段階では、ローカルで作成した.Folioファイルをプレビューで確認とかできてたと思うのだけど、仕様変更になったらしい。


4)コンテンツの(少人数での)共有はワークスペースの共有で。 …無料

作成した.Folioファイルを少人数で共有する場合(出版ではなく、あくまで複数台で見せたいだけの場合)Acrobat.comでワークスペースを共有することで可能

共有したいワークスペースをもつアカウントで、ファイルを共有させたい人のアカウント(メールアドレス)を招待する。
使用する人すべてがAcrobat.comのアカウントが必要となる。
共有する人数に制限はないが、共有ワークスペースの作成は無償版では一度に1つのみ。

コンテンツの(少人数での)共有が想定しているのは、たとえば商品カタログを電子化して店頭で表示し接客に使いたいであるとか、プレゼンツール、販促ツールとして使用するといった(出版以外の)利用法。
Acrobat.comの共有ってのは、人数制限はないんだけど、共有する人すべてがAcrobat.comのアカウントを持っている必要があるのと、見せたい人に対して一人一人招待をしなければいけない。

だから、この共有は「自社のカタログをいろんな人にみてもらえらえるよう無償で公開したい」といった用途には向かない。
(ただ、見せたい人を招待するのではなく、カタログを共有しているアカウントのIDとパスワードを公開しちゃえば、いいんじゃないかという気もするな<不特定多数への公開。フリーメアドで捨てアカウントつくって、そのアカウントを公開、見る人はそのIDとパスワードでみてもらう…とか。まぁ、勝手にデータ書き換えられたり、削除されたり悪用される可能性もあるけど)


5)複数の共有ワークスペースを公開する。 …有料!

Acrobat.comのアカウントでワークスペースの共有ができるのだけど、この共有スペースは一度に1つしか設定できない。
なので、複数の共有を持ちたい場合は、有料版のAcrobat.comアカウントが必要。

有料版アカウントは、まだ日本ではサービスが始まっていないのだけど、近々サービス開始予定。年1万円ぐらいだそうな。

はい、ここで有償サービスになりました!
ここからはすべてにお金(それも結構な額)がかかります。


6)コンテンツの販売、あるいは大規模な配布 …有料!

作成した.Folioファイルをマーケットプレイスで配布するためのアプリ化にはADPSサービス加入が必要
ADPSサーバで.Folioファイルのアプリ形式(.ipa、.apk)変換を行う

ADPSでは、アプリ変換だけではなく、媒体のダウンロードに伴う、解析、課金などのサービスも提供される。
アップロードしたコンテンツがどのぐらいダウンロードされたか、どの頁のどの広告がクリックされたか、そのクリック後どういったページをみているかといった、詳細な分析を行ってくれるらしい。あと、課金とその徴収の代行。
これらの解析サービスは、数年前に吸収したオムニチャー社の技術を利用している。

ADPSサービスの契約料は、まぁこのサービスに対する対価であるという事。
単にアプリケーション形式への変換だけで金をとるのではなく、情報分析の所が価値があるらしい。

で、気になるそのお値段。

前回のセミナーでも値段については聞いていたのだけど、今回お値段に一部変更が入ってた。

まず、契約料金として

年額60万円。

この60万円のなかにはサービフフィーとして5,000カウント分のサービス料が含まれている。
つまり5,000ダウンロードまでは、初期費用の60万円でいける。

で、ダウンロードが5,000超えた段階で、販売カウントにあわせてサービス料を追加で支払う必要がある。

※ダウンロード数ごとの追加料金

+25,000 +250,000 +500,000
625,000円 4,250,000円 7,000,000円
1部あたり25円 1部あたり17円 1部あたり12円


Adobeさん曰く「パケほーだいではない携帯のパケット料金形態をイメージしてもらえばわかりやすい」らしい。
ああ、そんな感じだね。
ダウンロード数が、カウント上限値ちょっと超えたあたりだと、すっっごい損な感じがするところもよく似てるよ!

サービス料の追加課金について、どの段階で支払うのかは、たとえば通常の5,000カウントを超えた時点でアカウントに対して、追加料金のメッセージが行くので、その後お支払くださいとの事。
ダウンロード数が超えていても、サービス停止(ダウンロードできなくなったり)とかはしないらしい。

料金の支払いはAdobeと直接やり取りというより、ADPSサービス契約を仲介する会社(例えばモリサワとかが販社として間に入るらしい)への支払いになる。



さて、このお値段、高いか?安いか?


ダウンロードの分析、解析、課金のサービスの価値をどうみるかによるけど、今、何もそういった解析の手段をもっていなくて、今後大規模に電子出版を展開していきたいと考えているなら、まるごとこのサービスを買うというのはメリットがあるかもしれない。

ただ、すでにある程度自社でそういったサービスなどを構築してしまっている場合は、その自社のサービスからの乗り換えや統合にかかる手間ひまを考えないといけない。(自社のサービスに統合するとなると、通常契約ではなくエンタープライズ版契約というさらにお高い契約になる。これは個別お見積もりだ)

このサービスに一番向いてないのは、小規模な出版で、あまりダウンロードの解析などが必要ない場合。解析はページビューとかページ内広告のクリック傾向とかそういった部分なので、そもそもあまりページ内でいろいろとクリックしたりしないようなもの(書籍とか)やクリックしたものの解析があまり意味の無いもの(んーたとえば、広告のない漫画とかでクリックされたものを解析してもあまり意味ないとか)で解析サービスをする意味がない。

あと、ダウンロード数に応じて費用があがるので、広く無料配布したいもの(カタログ、パンフレット)も向かないかも。
通販カタログみたいなのって、クリック傾向の分析は必要だと思うけど、でもダウンロードされるほどお金がかかるから。
ADPSのターゲットは雑誌で、カタログ、マニュアルなどは今後対応予定と言ってたけど、カタログやマニュアルでも同じ料金体系になるかどうかは不明。


一番残念なのは「使い慣れたInDesignから電子書籍データが作れる」ってところに魅力を感じて使ってみたいと思ってたユーザー。


Adobe Digital Publishing Suiteは確かに手軽に電子書籍データが作れるけど、そのデータを配布するのはあまりお手軽ではないみたいだよ。残念だけど!