ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

Vista文字対応、DTP的対処その2

インフルエンザで寝込んだり、桜が満開になるのに気を取られたりしてるうちに、すっかり間があいてしまいました。
前回の日記の続き「実際に入稿されたJIS2004データをDTP環境で作業するには」という話をしたいとおもいます。
ここでは一般的なDTP環境。つまりMacでの作業を前提に話を進めます。

では本題。Vistaで一躍脚光をあびた、JIS2004の印刷標準字形。これで入力されたテキストが入稿されたとき、DTPの作業ではどんなトラブルが生じるか?

前回の日記に書いたように、JIS2004準拠の文字セットで入力されたテキストを他の環境で開くと。
(1)違う字体で表示される
(2)文字が抜ける
というトラブルがおこる可能性があります。

ここでいう「他の環境」とはJIS2004ではない文字セットを採用しているフォントということ。
文字セットという言葉について、もうちょっと詳しく説明しましょう。
文字セットとはなにか。一言でいうと「そのフォントで使える字形のセット」です。
フォントメーカーがフォントを開発するとき、そのフォントで使える文字の形を一つ一つ作りますね、その形を集めて「このフォントで使える文字の形はこの集まり」というセットが文字セットです。
じゃ、「JIS2004」とか「JIS83」とかっていうのは何でしょう?
フォントを作るとき、そのフォントで使用する文字セットを決めます。でもこの文字セットの中身は、フォントメーカーが勝手に一から全部決めるのではなく、JIS規格で定められた「コンピュータで扱える文字コードとその印刷見本」などを参考にしています。JIS規格というのは何年かに一度見直しが行われるものですから、その見直しが行われた年度によって、若干の違いがでる。この変更を区別するために「JIS2004」とか「JIS83」のように変更が行われた年をつけて呼ぶわけです。

つまりこの参考にしたJIS規格が違えば、文字セットが違うフォントができてしまい、文字セットが違うフォント間では「字形の違い」「文字の抜け」といったトラブルが生じるという事です。

では一般的なDTP環境、つまりMacで使われているフォントは、いったいどんな文字セットを使用しているのでしょうか。

まずMacDTP環境で使われているフォント。というのを特定する必要がありますね。
MacDTPの世界では、過去の様々な事情、紆余曲折から、いくつかのフォントフォーマットが存在しています。
OCF、CID、そしてOpenType。最初に発売されたOCF。その後CIDというフォーマットが、さらにあとにOpenTypeというフォーマット、それぞれが、その前のフォーマットに置き換わる物として発売されたにも関わらず、一つも置き換わる事なく(笑)すべてが現在も存在するという、まことに厄介な状態にある3つのフォーマットです。

この、OCF、CID、そしてOpenType。それぞれのフォントフォーマットで作業する事を考えて説明していきましょう。

最初に、OCFで作業する場合
いまだ絶滅しない最古のフォントフォーマットOCF(笑)JIS2004準拠のフォントで入力されたテキストをこのフォントフォーマットの環境で再現する事は可能でしょうか?

ま、予想はつくと思いますが、無理です。

OCFのフォントは、JIS83準拠の文字セットというのを採用しています。当然JIS2004準拠の文字セットとは違いがありますので、JIS2004準拠のフォントで入力されたのと同じ状態を再現することはできません。

続いてCID。CIDで採用されている文字セットはJIS83準拠の物です。ただし、CIDにはOCFと違って「異体字切り替え」という機能がありますね。
例えばCIDフォントで「森鴎外」と文字を打った時、「鴎」の字はメの入った区で表示される。ところがこの文字をIllustratorInDesignといったソフトで「異体字切り替え」という機能を使うと、品の入った区(テキストだけでこの説明をするのは骨がおれますね…)に切り替えることができる。
OCFではこんなことはできません。OCFでは文字に対して、字形は一つ。一対一の関係ですが、CIDでは「鴎」という字に、二つの字形を持たせている。一対nの関係です。

ただし、文字が複数の字形をもっていても、同時に表示できるのは一つだけ(あたりまえです)なのでCIDフォントも通常の表示ではメの区の鴎の字形しか表示していません。
つまり、CIDフォントのなかで、一つの文字に複数の字形をもつ文字(ここでいう、森鴎外の「鴎」)はその複数の字形に順位づけを行い(メの区の鴎が1番、品の区の鴎が2番)通常の(テキストを入力しただけの)状態では順位が1番目の字形(メの区の鴎)を表示しているということです。
2番目以降の字形を表示するには、そのための機能をもったアプリケーション(Illustrato、InDesign)から字体の切り替えを行いその字形にアクセスする必要がある。

実は「品の入った鴎」は、JIS78の文字セットに含まれている字形です。つまりCIDフォントの文字セットにはJIS78の字形も含まれているのです。ですが、この表示のための順位つけで、JIS83の字形が一番の順位をつけられてますので、CIDの標準の文字セットはJIS83準拠のものとなり、JIS78の字形は普段は隠されていてでてこない。
この「デフォルトで表示される1番の順位をつけられた文字セット」の事をここでは「標準文字セット」と呼ぶ事にします。

ここまでの説明でお分かりいただけたかとおもいますが、CIDフォントの標準文字セットはJIS83準拠である。と、いうことは今回のお題である、JIS2004とは一致しない。ということで、CIDフォントでもJIS2004準拠の環境を再現することはできません。つまり入稿されたテキストをCIDで作業することはできない。

ではOpenTypeならどうでしょう?OpenTypeならJIS2004の環境を再現できるのでは?

先に答えを言ってしまうと、残念ながら、現在リリースされているOpenTypeフォントでも、標準文字セットとして採用されているのはJIS90準拠の文字セットです。
つまりやっぱりJIS2004とは一致しないわけで、そうなると現在のフォント環境では、JIS2004のフォントセットを再現できるものはないと言う事になります。

もちろんフォントメーカー各社は、この状況に対して、近々にJIS2004を標準文字セットとする新しい文字セットに対応したOpenTypeフォントを順次リリースすると発表しています。
新しくリリースされるこのフォントであれば、JIS2004環境で入力されたテキストをそのままもってきて、同じ状態を再現することができる。つまり何のストレスも問題もなく作業できるわけです。

ですが、とりあえず、現時点ではそのフォントはまだ発売されておりません。
では、たったいま、JIS2004準拠のテキストで入稿があった場合、どうしたらいいのでしょう?
そんな仕事受けなきゃいい?いや、受けないですめばそれが一番なんですが、そこは私たち印刷会社というのは弱い立場ですからお客様がJIS2004で入稿してきてそれを出せと言われれば出さないわけにはいかないじゃないですか。お客様は新しいフォントが出るまで待ってはくれないし(笑)

現状のフォントで、JIS2004の環境を再現する方法がないわけではありません。
現在発売されているOpenTypeのPro5フォントで採用されている標準文字セットはJIS90準拠ですが、その後ろには隠された字形(つまり順位が2位3位の字形)をたくさんもっています。
その隠された字形の中にはJIS2004で必要な字形がほとんど含まれています。つまり、JIS90の字形で表示されている文字をすべてJIS2004の字形に切り替えてやれば、JIS2004に近い環境を再現できます。

…と、簡単そうに書きましたが、これは結構大変な作業です。

上でも書きましたが、隠された字形にアクセスするためにはそのための機能をもったアプリケーション(InDesignIllustrator)を使い、その字形に1つ1つ切り替えるという作業が必要です。
異体字パレットを使った事がある人ならその大変さは想像できると思いますが、大量の文章の中から必要な文字を探し出し、一つ一つ切り替えしていく…ま、やってやれないことはないかもしれませんが、あまりやりたくない作業です。というかこんなことやってたら、ストレスで髪が真っ白になってしまう。絶対やりたくない(笑)

このコンピューター時代にそんなアナログな手作業はやってられません。なんとかもっと簡単に変換作業をすませる方法はないものか。そういうツールはないものか。…あるんですね。

実は「InDesignドキュメント上の字形をJIS2004の字形に一括変換するツール」というのが存在します。
フォントワークスが出している「舞字形」というソリューションです。
http://www.fontworks.com/new/news/2007/070205.html

「舞字形」はもともと教科書や学習参考書といった「特定の字形への変換処理が大量に発生する業務」向けのソリューションでした。
私も以前からその存在は知っていましたが、「へぇそんなものがあるんだー」ぐらいに思っていたんですが、いや、ここにきてまさかの大注目(笑)
このソリューションを使えば、JIS90準拠の文字セットから、JIS2004への切り替えが一括処理で行えるんです。
今、どうしてもJIS2004でのDTP業務が必要な人は導入してみるといいかもしれません。お値段もそんなに高くないです3万円ちょっと。

ただし、注意点がひとつ。
このソリューションで切り替えを行えるのは、InDesignのみです。Illustratorには対応してません。
IllustratorドキュメントでJIS2004が必要な場合はやっぱり手作業で切り替えするしかありません。
ま、一般的に「大量のテキスト文書」を組んでいるような業務はページ物ですし、あまりIllustratorでそんなベージ数のドキュメントは作らないでしょうから、問題はないと思いますがね。

…え?「うちでは100ページを越えるページ物でもIllustratoで組んでるから困る」?
…すごいですね。でもそれちょっと考えを改めた方がいいとおもいますよ。これを機会にInDesignへの移行をお勧めします(笑)