ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

鳥海修「仮名の開発」―タイポグラフィの世界 書体デザインその1

「連続セミナー タイポグラフィの世界 書体デザイン」の1回目、鳥海修氏による「仮名の開発 ー株式会社キャップスの文麗・蒼穹・流麗・文勇の仮名を中心に」を受けてきました。

このセミナーは書体デザインをテーマとした連続セミナー。書体デザイナーやディレクターの皆さんから、書体デザインの制作の過程、発想から問題の解決など、様々なお話を聞こうというセミナーです。
6回連続の1回目という事で、来年3月まであと5回予定されています。参加費が1000円と格安ですし、なによりこういった「制作者の裏話」が聞ける機会はめったにない!もう既に定員に達してしまった会もあるようですが、興味のある方は是非参加されるといいと思います。


私はこういう裏話的な話が大好きなので、ホクホクで参加してきましたよ!

セミナーレポートは基本的に私の手書きメモから書き起こしてます。
なので、細かい部分など違いがある場合があります。
また、許可をいただきましたので、当日のスライド画像も載せますが、あまり画質は良くないです。色が青かぶりとかしてますが、気にしないでください。


第一回は字游工房の鳥海氏(株)キャップスの仮名書体開発のお話。
お話は、まずAKBの読書感想文の話題から。

書体は一人では作れません

(手に持った本を掲げて)これ、この本、AKBの本なんですけど、AKBのメンバーが本を読んでその読書感想文、手書きで書いたのが載ってるんです。
これ、書体の宝庫だよね、フォント化したら売れると思うんだよ(笑)それと皆、縦書きで書いてるんだけど、書きにくそーに書いてるよねぇ(笑)

▲AKBの「AKB48×ナツイチ 直筆読書感想文集」でした

えーと、今日はキャップスの4書体を作った時の話をします。以前にもどこかで話した事があるんだけどね。

私は山形県鳥海山の近くで育ちました。で、写研に勤めてそこで10年間文字を作ってた。その後平成10年に鈴木勉さんと字游工房を立ち上げた。

写研では文字をものすごく丁寧に作ります。何度もテストを繰り返して品質も高い、そういう文字の作り方を先輩方に教わりました。
そこでは、欣喜堂の今田さんとかFONTWORKSの藤田さん、モノタイプの小林さんとも一緒でした。とは言っても、そんなに文字の話ばかりしてたかというとそうでもなかったですけど。
写研というのは仕事が終わるのが早いとこで、朝8時15分に始まって、夕方4時45分には終わる。朝ラジオ体操やなんかが終わると、皆シーンとして黙々と墨に向かう。あ、でも藤田さんなんかはよくしゃべって怒られてたな。

その後字游工房を立ち上げて、クライアントは20社ぐらい、その中で作った書体が100書体ぐらい。20年間で100書体だから、1年で4書体くらい?

これ、書体作るって言っても、まさか(会場の)みんな、全部俺が一人で作ったと思ってないよね?

書体ってのは一人では作れないです。大体10名ぐらいのチームで作る。デザインやエンジニアやテストやそれぞれ担当する人が違う。
もちろん、責任を持つって言う意味で「責任者」は俺だけど「制作者」はたくさんいる。
個人のスキルより、グループとしてのスキルが高い事が勝負になる。

キャップス専用書体開発のきっかけ

キャップスDTP組版がメインの会社です。そこの依頼でフォントを作る事になった。
仕掛け人の名前は、なんか明かすなって言われたんで言いませんけど(笑)

今、モリサワのPASSPORTとかFONTWORKSのLETSとかありますね。
PASSPORTなんか全部で1300書体も入ってる。モリサワのサポートに電話するとね「全部入れるのはおすすめできません」って言われる量。どうしたもんでしょうね、1300ですよ。
俺の会社のパンフ、みたら37書体しかないの。1300と37。しかも向こうは年間ライセンスで使い放題。真面目に細々やってたお店の前に大規模店舗が建っちゃったようなもの。

制作会社はねLETSやPASSPORTをいれとけば事足りちゃうんですよ。
これに対抗しようとすると、価格競争になっちゃう。
だから、他の制作会社にない特徴をだすために「仮名書体」を作ろうという話になった。

キャップスの仮名は市販はされてないです。キャップス内部でのみ使用するために作りました。使いたい場合はキャップスに組版を頼むしかありません。

最初に話を聞いた時「1書体3ヶ月で作ってください」と言われまして。
仮名書体を作るというのは面白いと思ったけど、同時に「できるかな?」とも。

写研にいた頃、仮名はほとんど作らせてもらえなかったんです。さっき、書体は個人では作らない、グループで作るといったけど、仮名だけは別。
当時も仮名については橋本さんとか、鈴木勉さんとかが一人でほとんどつくっていた。
書体の漢字部分を作るというのは、ある程度何かを下敷きにして作るものなのだけど、仮名は別。まったくオリジナルで作らなければならない。

キャップスのプロジェクトは今まで自分がやった事のない、本当にオリジナルの文字を作れるかという話だった。

近代文学向け仮名フォント「文麗(ぶんれい)」

「こころ」の女の人の気持ち

最初に頼まれたのは「近代文学向けの仮名」。夏目漱石の「こころ」を読んで、そのイメージで作ってほしいと言われた。
自分は夏目漱石は好きで学生時代からよく読んでいた。中でも精興社の文字組が好きでした。
この話がきて、改めて「こころ」を読み返して、あれ、結構重い話ですよね。一人の女を二人の男が好きになっちゃって、で、結局最後は二人とも自殺しちゃうんですよね。でもこの話、その女の人はほとんど出てこない。ずっと男二人だけの話。あの女の人はどうなんのと思っちゃう。

僕は、この残された女の人の気持ちで仮名を作ろうと思った。

これ(フォントを作るイメージ)をどうやって説明したらいいのか難しいな。長嶋のバッティング指導みたいになっちゃう「ピューッときたらギュッと打つんだ」みたいな

仮名を合わせる漢字は筑紫明朝でと指定された。けど、これもどうでもいいかなと思って。
たとえばこの漢字。5つ並べて全部違う書体なんだけど、ほとんど同じでしょ、同じに見えるでしょう。

▲左から「游明朝」「本明朝」「筑紫」「イワタ」「リュウミン

変わんないんですよ。明朝って。太さを合わせればほとんど同じ。どの漢字にもあわせられる。だからこの太さに合わせて仮名を作ろうと思った。

粘着度の高い仮名

漱石の「こころ」はひとつひとつの文字をゆっくり読みたいと思った。硬派じゃなくて女性っぽい、じめっとした感じ。
あまり縦につながらない、扁平な感じで、粘着度が高い、筆が離れない。書くスピードも一定で書くそういうイメージで。書く時のスピードも自分の頭の中に入れて書いていった。
外国文学向けはもっとさっぱりした感じ。女流文学向けはこう。


▲「こんな感じでね」と印象の違いをボードに書く 左から「近代文学向け」「外国文学向け」「女流文学向け」

これは鉛筆で下書きをかいたもの。20mm×20mmの枠のなかに鉛筆で書いていった。写研では48mm×48mmの枠で書いてたのだけどそれだと1文字ずつでしか見られないので。20mm×20mmだと1行で並んだ文字を見る事ができる。

鉛筆で書いた後、筆でなぞります。なぜ筆を使うかというと、鉛筆で輪郭をなぞると嘘っぽくなるから。
次にコピーで48mm×48mmに拡大して、輪郭などの修正をしてます。20mm×20mmだとどんなにきれいに書いてもどうしても画質がガタガタしちゃうので

▲鉛筆でのデザインと拡大コピーを修正したもの

3日ぐらいでひらがな50音できちゃって、天才かなと思った。これならいくらでも作れるなと(笑)

デジタルフォント化

手書きでのデザインができたら、簡易的にフォント化します。
うちのエンジニアが作ってくれた簡易的にフォントをすぐ作れるツールがあるのだけど、それでフォントにして、テキストとして並べてみる。

▲作成したフォントでもじを並べたもの 拡大

こうやって並べて見ていると、色々見えてくる。
たとえば「おんれい」の「れ」は入りすぎじゃないかとか、「お」のはねあげがうるさくないかとか、わかる。
こういった善し悪しというのは、経験としてこれはいい、悪いとぱっと分かるものもあるのだけど、しばらく時間を置いて、新しい環境、たとえば電車の中とかでチェックしたりする、そこで見た時に「あ、だめだ」と分かるときもある。それを受けて修正していく。

▲初期バージョン(上)と修正後のバージョン(下)

修正前と修正後だけど「れ」とか「あ」「お」などは大分すっきりさせています。
「お」の上の部分、最初はつなげてたんだけど、こういうところは文章を組むとうるさくなっちゃうんですよ。「さ」の傾斜や「し」の折れ方なんかも修正してますね。「せ」の横棒、最初の入りのところ、ここが長いと男っぽい感じになるんだよね。ほんのちょっとの違いなんだけどねー。

全体的な大きさもちょっと小さくしたりしてます。
上の初期の方は最初に手で書いたのに近いんだけど、総じて(最初のと比べると)穏やかな感じになってるね。自分でいうのもなんだけど、下の方が練れてます。ちゃんと。

そんなこんなで14回ほど作り直しました。全部直したわけではないけど、かなり手を入れた。
最初に出来たときは「天才だー」と思ったんだけど、やっぱり天才じゃなかったです(笑)

形と音と線は密接に結びついている

仮名を作るときの規則として、大きく書く文字は仮想ボディの内側の字面の線に接するようにかいてます。
「あ」みたいに大きい文字は字面いっぱいにかく。

▲仮想ボディと字面


(大きく書く文字と書かない文字の違いは?)
うーん、例えば「い」とかは「い〜〜〜っ」って横長なイメージだし、「と」とか「か」とか…。音のもつイメージ。
発音、音と形は密接に結びついていると思う。だからこそ、仮名の大きさには差がある。その形を活かして筆でどれだけ自然な線で書けるかというのが大事。
形と音と線はとても重要。いかにこれを美しくみせるかというのが俺たちの使命というかなんというか、その為にやっている。


(カタカナはどうですか?)
カタカナはどうしようもないです(笑)
ひらがなっていうのは平安時代に出来た文字で歌を書く為に声に出したい文字だけど、カタカナというのはそういうリファレンスというかベースがない。
左払いをどうかっこ良く書くかというのはあるかな。あと「ロ」はあまり大きくしたくないとか…漢字の口に似ちゃうから。でもカタカナの場合、何が正解というのはないね。

▲カタカナ

プレゼン

最初に仕事を受けた時、組版をいつもやっている人たちに選んでもらえるフォントが出来るだろうかというのが不安だった。
いざフォントができて、キャップスでプレゼンをした時、実際に組版をやっている人を10人ぐらい集めて、こちらで(フォントを変えて)10種類ぐらい用意した組版をみてもらい「一番きれいだと思うもの」のアンケートをした。
そしたら、この書体にはほとんどの人が手を挙げてくれて、そこで「この書体は皆さんの為に作った書体です」と言ってプレゼン終了。
プレゼンで選んでもらえるだろうという自信はあったけど、あの時は嬉しかった。
「文麗(ぶんれい)」という名前は、キャップスの方とか仕掛人が決めました。


外国文学向け仮名フォント 「蒼穹(そうきゅう)」


外国文学向け仮名は、ディケンズの「二都物語」を読んで作れと言われました。
これがねぇ、長いんですよ。文庫本の上下巻で。そして、暗い暗い、くら〜〜〜〜〜いの。
50Pぐらい読んだら嫌になっちゃって。イギリスって暗いんだなぁと思って。
これに合わせて作ったら嫌な感じの文字になっちゃう。だから依頼は無視して作る事にしました。

蒼穹
翻訳だし、色をつけないほうがいいだろうと。明るく、爽やかに、誰の本でも合うように。

カタカナの大きさがキーになるだろうと思いました。翻訳物はどうしてもカタカナの量が多くなるから。ほら、あれ「罪と罰ドストエフスキーですか?あれなんかも、人物名が長くってカタカナばっかりでしょう。

蒼穹 カタカナとひらがな
カタカナとひらがなを同列に考えてつくった。だから見方によってはちょっとカタカナが大きく見えるかも。

線に思い入れを入れないように、あまり筆のニュアンスは出さないようにつくった。
さっぱりしてて、直線的で、今日みたいな爽やかな秋空っぽい。だから蒼穹という名前になりました。

イワタオールドとの比較。カナの小さいイワタオールド、大きい蒼穹


蒼穹で組んだ文章(左)イワタオールドで組んだ文章(右)

イワタオールドのカタカナってすごく小さいんですよ。それと比べると蒼穹のカタカナは大きい。
私の中ではけっこうキワドい大きさだと思う。普通なら私はもっと小さく書きます。

イワタオールドは小説を組む時に人気のある書体だけど外国文学を組むにはちょっとカタカナが小さいと思う。あ、今日イワタの人も来てますけどすいません(笑)

「文麗」と「蒼穹」の違い

蒼穹の仮名を作るのはあまり時間はかかりませんでした。思い入れを断ち切って作ったのであまり考えずにできた。
蒼穹」の方が「文麗」よりちょっと字面が大きいです。

「文麗」は「こころ」を読むということで、1つ1つしっかりと丁寧に読ませたいので、ちょっと扁平にして、漢字に対して仮名の字面を小さくした。
外国文学はそれに対してもっと明るくしたいと思った。だからちょっと字面が大きい。

例えば精興社明朝なんかは、仮名の字面が小さい。そしてちょっと扁平。だから組版がちょっとクラッシックに見える
それに対して、例えば小塚明朝は仮名の字面が大きい。新聞明朝に近い。

どちらがモダンかというと、これは小塚の方がモダンだと思う。仮名を小さくするとクラッシックに見える。

「文麗」と「蒼穹」だと「文麗」は文学寄り「蒼穹」はモダン。
蒼穹」はイワタに比べると文字が大きい。やはりモダンにしたかったから。行が1行で見えるような。

女流文学向け仮名フォント 「流麗(りゅうれい)」


「流麗」は作ったはいいけど、まだ全然使われていないんだよね…なぜでしょう(会場から「使いにくいんだよ」の声 キャップスの方?)

「文麗」と「蒼穹」が割とうまくできたので、もっと極端な文字を作ってほしいということで「女流文学」と「プロレタリア」をテーマに作りました。
これが大変。はじめはもっと簡単に出来ると考えていたのだけど大変だった。

女流文学向けフォント「流麗」は古い文献からよい形をみつけてきて、そこからフォントを作るという方法。
この方法は、昔中国からきた漢字に仮名をどうやって組み合わせて組版するかといった江戸から明治にかけての苦労、それに似てる。


▲「や」「な」の形を参考に
この「や」とか「な」とか形がいいでしょう。これを抜き出して組み合わせていった。
ところが、そうやって作っていくと、男にしかならないんですよ。文字が。女の人が書いた文字にならない。
この辺、鎌倉時代の文字とかだととたんに文字が男の字になっちゃう。
どうしようと思って、色々文献を探して、たどり着いたのがこの字。
これ、藤原定家の異母姉、坊門局さんの字なんですが、この「の」とか「け」「や」がとても女性らしい。これでいこうと思いました。

▲坊門局の文字



▲坊門局の字を元にデザインした流麗
うーん…。でもこの字はもうちょっとなんとかしたいなー。(スクリーンの表示をみながら)
こんな「お」とかないですよね…。でもまぁ(こうしてしまった)気持ちはわかる…。
局さんが字を書いたのは面相筆だとおもうんです。面相はあまり強弱がでない。自分が使っているのは写経用の筆なので、ちょっとのことで細い太いがでちゃう。自分の筆で局の字に合わせてかくとこうなっちゃうんですよね…。うーん。

これやってみて思ったのは「築地体三号細仮名」あれと似たような感じになっちゃう。あれもすごくきれいなんだけど、明朝と合わせるとうまくいかない。楷書と組み合わせたほうがしっくりする。
これも教科書体とかと組み合わせた方がいいかもしれない。
「流麗」はコントラストが難しいですよね。明朝体に合わせるとコントラストをつけないといけないんだけど、あまりつけられない。だから太いウエイトで作れっていわれても作れないと思う。
うーん…。説明している人が自分で作っといて自分で悩んでるって、これいいのかな。でももうちょっとなんとかした方がいいなぁ、これは。


(Web用に使うとかはどうですか)
えっ?うーん「縦組でつかう仮名」という注文だったので横組で使うのは考えたことがなかったな。



▲流麗 最初に作っていた字形(上)と最終的に流麗になった字形(下)
上が最初に書いた男にしかならなかった字。これも別のフォントとしてだそうと思ってるんだけど、なかなかできなくて。この「せ」なんかすごいんですけど。
私、今変体仮名をつくろうと思ってて、それで他のが遅れてるんです。

キャップスさんに流麗を納品したとき「と」の形が目にひっかかるといわれたんですけど、そこは変えませんでした。
「流麗」はイワタと合わせると固すぎて、リュウミンと合わせる方がいいと思う。「文麗」はイワタとの方がいい。

1万字もあるのに足りないの?!

なぜ游明朝と合わせないかというと、これを作ったとき、游明朝はAdobeJapan 1-3にしか対応してなかったんで、力不足といわれたんですね。
イワタなんかは1-6対応していたから。
でも1-3も一万字もあるんだよ?一万字もあるのに足りないのか?って。ねぇ。写植なんか5千字しかなかったのに!
そして一万字と二万字とで値段が変わらないってどういうことなの?…とかいっちゃうと数が少ない方を安くしろと言われちゃいそうだけど。


プロレタリア文学向け仮名フォント 「文勇(ぶんゆう)」


「文勇」はプロレタリア文学を組む為のフォント。
これを作ったのは私ではありません。モトヤから字游工房に入ってきた伊藤君という人が作った。まだ3年目ですよ。3年しかやってない人がここまでやるのかっていうね。

「文勇」は小林多喜二の「蟹工船」のイメージ。無骨、硬筆、金属質、男性的、右肩上がり、こぶりな仮名。矢沢永吉を組むようなゴリゴリ感で。山椒は小粒でぴりりとからい、ってイメージメモに書いてあります。

「流麗」とは対照的なフォントです。

▲「文勇」初期デザイン(上)と最終デザイン(下)
20回ぐらい作り直してましたね。もうやめろって言いましたけど(笑)
最初と最後を見比べてみると、大分矯正されておとなしくなってますね。個性は残ってるけど、普通っぽくなっている。

カタカナは小さめですね。多少修正で大きく強くしたんだけど、それでも小さめだと思う。
修正では太さも太くしてます。カタカナが小さい上に細いと存在感がなくなっちゃうから。

文字を作ろう!フォントを作ろう!

今回、テーマがあってその内容に即した仮名をつくるという事で、すごくチャレンジングだったし、勉強になった。

今、フォントの中に文字が約2万3千字あるうち、仮名は約200文字ぐらい。
同じ組版でも仮名をかえるだけで印象ががらりと変わる。これは日本語の組版の特徴。
だからなんだって(新しい書体だとかいって)2万文字も作らなきゃならないのかと思うんだよね。

私、今、文字塾というのをやっているんだけど、皆さんちょっと文字を作ってみたらどうですかと。
20mm×20mmの中に作れば、仮名はすぐに作れる。皆が自分の明朝体を持つ。
個人でFontを作るというのは、写植の頃には考えられなかったけれど、今はちょっとこころざしさえあれば出来るでしょう。
自分で文字を作ってみれば、どういう文字が自然な文字か体得するきっかけになる。
PASSPORTの文字なんかに頼らず、1300書体に頼らず、見出しぐらいだったら自分で作ればいいんです。文字を作ろう!フォントを作ろう!



――ここから会場参加者との質疑応答に。


「流麗」を納品した時に「と」の形について言われたということですが、今の形で押し通した理由はなんですか

うーん、なんだったかな。何で押し通したか。今見るとそんなにこだわらなくてもよかったと思うね。


AKBの読書感想文フォントは出るんですか

やったら売れるだろうなーと思うんですけど、でも売り上げほとんど(AKBサイドに)持ってかれるだろうなと(笑)
写研で昔、丸文字コンテストっていうのをやって、そこで入賞した丸文字を文字化した事があるんですよ。
でもその時、写研の石井裕子社長が美容室でたまたま見た雑誌にのっていたおニャン子クラブ永田ルリ子さんの丸文字をみて「これいいじゃない」と「ルリール」という名前で文字化した。これは入賞した文字より3倍ぐらい売れました。


今後新しい書体を開発しますか

うーん、もっと若い人がやるかなと思う。
私が明朝やゴシックばっかりやってるのは、これが日本の文字のキーだと思うから。文化の礎というか。
時代とともに文字の形は変わると思うけど、積極的に変えていくのか、守っていくのかだと、自分は守っていく方をやりたい。
底辺がしっかり守れていることによって、枝葉を支えていくというか。

明朝をしっかり残していく。要は本文書体をちゃんと守っていきたい。
守る一方で、今後電子書籍などで文字が表示されるデバイスが変わっていく中で、タイポグラフィも変わっていくだろうなと思う。
iOS7がでて文字が細い細いって話題になっているけど、今、デジタルデバイスで見る文字、みんな細いよ。
今後、新しいデバイスに合わせた、紙では使えないタイポグラフィが出てくると思う。そうするとベーシックな形から変わっていくと思ってる。


本文書体ではなく、見出し書体で、何かの復刻というのではない新しい字游工房オリジナルの見出し書体をやってください


よし!やるよ!(笑)


【感想】
確固たるイメージをもって作った「文麗」「蒼穹」、リリース後もまだ悩んでいる「流麗」いずれの話も、フォント制作者の思考を感じることができて、大変面白かった!

仮名を作る、というテーマの話の中から、鳥海氏の考えるフォント制作のポリシーとか、これからどうしたい、どうなると思う、という考えとか、色々な事が感じられるセミナーだったと思います。

とくに、最後の質疑応答ででた「これからのタイポグラフィ」について。
伝統的なものを守っていく側でありたいといいつつ、今後タイポグラフィは変わって行くだろうということを確信している。この辺りは、いま電子書籍などに関わる人みんな、それぞれの立場で感じている空気なのかもしれないなー。