ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

JAGATセミナー『EPUB「広報ひらつか」の制作・発行と課題』

だいぶ前(7/12)のJAGATセミナーだけど、レポート書きかけでほったらかしてた。いまさらだけど、アップ。


JAGATセミナー、【印刷とEPUB、ハイブリッド出版の進展と課題】にいってきました。
【印刷とEPUB、ハイブリッド出版の進展と課題】というテーマだけど、あまりハイブリッド印刷…という内容ではなかったかも。
EPUBによる出版についての事例紹介がおもしろかったので、その部分だけレポート。

EPUB「広報ひらつか」の制作・発行と課題』

「広報ひらつか」は神奈川県平塚市の広報誌。発行は月に2回、第1・3金曜日、発行部数約11万部。
制作はInDesignCS3。新聞社(神奈川新聞)がデザイン、印刷を担当。

これの電子版をEPUBで出版している。(http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/koho/ebooks.htm)
制作を担当しているのは、株式会社ローヤル企画。

「広報ひらつか」が電子版の出版を検討したのは、従来の広報誌が一世帯に1部の配布であり、市街からの通勤通学者に情報が届かない事、また、若い世代などに読んでもらえない事などをふまえて、一人一人に情報を届けられないか、電車やバスの中でも読んでもらえる形式はないかと考えた。

従来の「広報ひらつか」は新聞折込での配布だったが、新聞の購読率が下がっている事から、市内全戸へのポスティングへ切り替えた。他、コンビニ、駅などへの配置。

携帯、スマートフォンでも読める形での情報発信として、2010年より、携帯サイトを構築して情報発信していた(これは今回のEPUB版を出す前)広報誌の中から情報をピックアップして掲載していた。
現在はEPUB版に移行したので、携帯サイトでの情報提供は行っていない。
(個人的にはクローズしちゃったのはどうかなーと思う。携帯サイトって主婦とかは圧倒的に利用率高いし、EPUBより利用しやすい場合もあるんじゃないかな…)


電子書籍化の提案経緯

電子書籍化するにあたっての条件として、

  1. InDesignデータからの電子化
  2. 主な電子書籍フォーマット・端末に対応したい
  3. 入稿から納品まで3日

というのがあり、

の3つを提案。
このうちPDFでの配信自体はそれまでも行っており、「なかなか見てもらえない」「表示したときの文字が小さくユーザビリティに欠ける」といった問題があった。
iPad/iPhoneについては、端末が限定される上に、開発費用がかかるため却下。
EPUBは、短納期である事や、様々な端末に対応できること、動画やリンクの設定が可能であることから、選択された。


・実際の制作での問題点と解決法

EPUBのビューワーによって解釈(表示)が変わってしまう。
(短納期などの条件を考えると)ビューワーによって作り分けるというのはできないので、どのビューワーでもなるべく(表示が)変わらないように、できるだけシンプルなデザインにする事にした(EPUB版は紙版とはデザインをまったく別にしている)


EPUB版「広報ひらつか」の機能

  1. 目次機能
  2. 電話番号へのリンク
  3. メールアドレスへのリンク
  4. 動画サイト(平塚市の公式YouTube)へのリンク
  5. 担当課、施設名へのリンク


・作業のスケジュール

  • 新聞社からInDesignデータとPDFデータ入稿

 月曜夜(月2回)作業指示書にはページごとのイレギュラー処理の指示

 作業は火曜スタート
 ・画像をPNG型式に変換
 ・目次作成
 ・各ページをハンドコーディング
 ・動画リンク追加
 ・担当課、施設、電話番号、メールアドレス等のリンク設定(置換により一括処理)

  • 作成データを平塚市に送付 木曜日
  • 平塚市で校正、それを修正 木曜夜まで

 校正のやり取りはそれほど量があるものではないので、電話とメールで。

  • 完成データをサーバにアップ 金曜朝


EPUB版の告知はどうやって行ったか

3月末に市長が記者会見し、発表。本来は3月半ばに公開予定だったが、震災のためタイミングをずらした。
新聞、タウン誌等に掲載され、YahooニュースなどWebニュースにも取り上げられる。
電子出版関連のブロガーがとりあげ、Twitter等で話題になった。どちらかというと市民よりも電子書籍関係者が話題に。

EPUB配信をしている自治体はいくつか有るが、画像化されたものが多く、テキストベースのEPUBでの配信は珍しい。
そのため、ネットの(電子書籍関係者の)反応もよかった。


・スタート後の改善点

一時的なダウンロードではなく、継続購読してもらうにはどうしたらよいかということで、EPUBポッドキャスト配信を開始。


・レイアウトデザインの特徴、制作上の注意点や課題

使用しているスタイルシートは主に2種類、記事の内容によって2種を使い分けている
幅広い年代の人が読みやすいように、行間は広めに設定。
容量はできるだけ軽く、紙の8Pに対して3MB程度を基準にしている
EPUBビューワーはいくつもあるが、ビューワー間で解釈が異なってもできるだけ同じような表示になるよう、シンプルなデザインをしている。Android端末等それぞれのビューワーの解釈をうまく理解して対応している。
データ改ざんへの対応は今のところできていない。EPUBはZipファイルなので、中を改ざんできてしまう。今後対策していきたい。


・EPUB3への期待

今後のEPUB3への対応としては、まず日本語組版(縦書き、ルビ)といったものへの対応
アクセシビリティの向上で、障害をもった方への(音声読み上げ等)対応
JavaScriptをつかった電子書籍ならではの演出

実際(紙)の広報誌はたて組なので、3.0で対応したいが、現在の2.0版をやめるか、両立するかは未定。
スケジュールの都合もあり、両立は難しいかもしれない。


・今後の電子書籍への(会社としての)取り組み

EPUB作成については、広報誌作成のニュースが広まってから案件が増えてきている。
学会資料のペーパーレス化や書籍等の電子書籍化など。学会資料については検索性、しおりなどの対応、Webとの連動などでEPUBが選ばれるようだ

制作するDTPオペレータもEPUB作成ができるようにならなければいけないと考えている。書き出したEPUBの修正ができる程度の知識は必要。
いろんな形を提案できるようにということで、Adobe Digital Publishingへの対応も同様に考えている。
お客様の用途に応じて複数のフォーマットの提案ができる体制を構築する。
EPUB作成の効率化・自動化にも取り組む。もともと自動組版などを行っていたので、それを生かして、EPUB形式への加工を効率化できないかを検討中


・会場からのQ&A

Q「今の制作体制としては手作業で行っているのか?」
A「今は完全に手作業。いずれは自動化したい」

Q「『広報ひらつか』のダウンロード数は」
A「具体的な数は知らないが(発表されてすぐの)4〜5月は多かった(Webニュース等にでたので、電子書籍関係者が多くダウンロードしたようだ)6月からは減っている」

Q「(『広報ひらつか』はPDF版もアップロードされているが)EPUBとPDFのアクセス数の比較は」
A「PDF版についてはもともとほとんどダウンロードされていない。行政としては、PDF版は情報をとりあえず全部Webにのせておこうという考えでアップロードしてある」

Q「今後の認知方法は」
A「現在の紙の広報誌での告知、地元ケーブルテレビのコミュニティチャンネルやバスの中吊りなどでの告知を考えている」

Q「制作人数は」
A「1名。4月に入った新人が一人で担当している」

Q「費用はいくらもらえているのか」
A「具体的な金額などについては言うなと言われているのだけど、あまり貰えていない。数万円程度」

Q「データ改ざんへの対応(DRM)についてどう考えているか。客からの要求はあったか」
A「(広報ひらつかについては)コピーして配られる分には(広報誌という性格上)問題はないが、改ざんは困る。専用サーバを入れてプロテクトするという案もあるが、そこまで大幅な予算はかけられない。とりあえず今のところ問題はでていないので、しばらく今の(プロテクトをかけない)運用で様子を見る」

Q「学会資料などの案件があるという話だったが、その場合DRMは重要になると思うが」
A「(学会などのDRMが必要な案件については)会員制の専用サイトと、専用ビューワーでのプロテクトを考えている」

Q「平塚市以外の市から同じような案件での問い合わせはあるか」
A「今のところない」

Q「ポッドキャストの購読数は?」
A「具体的には聞いていないが、Podcastジャーナル等で取り上げられたとは聞いている。今のところ行政がやっていなかったEPUB配信、ポッドキャスト配信ということで(関係者間で)話題先行している。(本来の対象者である)市民への浸透はまだこれから」

Q「EPUB、PDFを提案したというが(読みやすさという点で)MC-Book等は提案しなかったのか」
A「図版等もあり、弊社としてはEPUBが作りやすかったので」

Q「EPUB3で縦組み対応ということだが、平塚市から縦組みに対応してほしいというような要望があるのか」
A「ない。(平塚市からは)読みやすければ紙面と違っていてもよいという考え」



EPUBによる案件を実際に受けている会社という事で、会場からもいろいろと質問が飛んでた。
ダウンロード数など具体的な数字は平塚市から聞いていないという事でしたが、関係者間での話題でダウンロードされているのがほとんどで、実際に広報としての認知、ダウンロードはまだまだこれからという印象。
あと、費用について、やはり変換費用などは「あまり貰えないです」という言葉がちらほらでてた。月曜日にデータがきて、金曜日アップという短納期で費用も安い(多分、片手万円ぐらい…)な感じ。

そもそもEPUBを選ぶのも費用の安さで選んだという部分もあるかも。
すべての案件がADPSやらappアプリやらのリッチな手段をとれるわけではない。
そのときに、何を選ぶかだけど、EPUBというのもあるだろうし、なにも電子書籍とかの形態にこだわらなくても、HTML5やらを使ったWebアプリって形もあるんだろうな。
どんな形でも提案できる(対応できる)準備ってのが必要なんだろうね