ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

DTP Booster 014レポート その1

DTP Booster 014(Tokyo/100619)、「InDesignをコアとした電子出版に関しての「全部乗せ」的なイベント」に参加してきました!



いや〜すごかった!行ってよかった!面白かった!
はるばる、自腹で東京まで行ったかいのあるセミナーでしたよ!

会場はぎっしり満員で、聞くと430人ぐらい参加したらしい。それだけ「電子書籍」というものが期待されている現れだと思う。
その430人の参加者が12時半から18時半までみっっちり6時間。8人のスピーカーの話に耳を傾けていた。

8人のスピーカー、電子書籍に関わっているという所だけが共通項で、その関わり方、立場はまったく違う人たち。
当然、電子書籍への考え方もそれぞれの立場からみた考え方で、意見を同じくするところもあれば、まったく反対の考えを述べる部分も。
どちらが正しい、間違っているというのではなく、電子書籍、出版というものが、今これから様々な可能性(この可能性というのはいい意味でもあるけど、悪い方に転ぶ可能性もあるという意味)を含んでいるという事だと思う。

8人のスピーカーとその立場はこんな感じ

  • 小木昌樹 編集者、出版者
  • 境 祐司 著者、コンテンツ制作者
  • 森 裕司 著者、コンテンツ制作者
  • Joel Ingulsrud オーサリングプログラムメーカー
  • 宮本 弘 オーサリングプログラムメーカー
  • 岩本 崇 オーサリングプログラムメーカー
  • 黒須 信宏 コンテンツ制作者
  • 田代 真人 編集者、出版者

オーサリングプログラムメーカー3者、Joel Ingulsrud氏、宮本氏、岩本氏の立場はわかりやすいと思う。「電子書籍を作るためのツールを提供している」立場。
境氏、森氏、黒須氏は「電子書籍の中身(コンテンツ)を作成する」立場。中身というのは、書籍の内容だったりそのデザインだったり組版的データであったり様々だけど、とにかく手を動かしてコンテンツを作成する立場。
小木氏、田代氏は編集、出版者。「電子書籍をプロデュースする」立場。

それぞれのセッションを通しての感想を書いてみたい。
なお、この感想はセミナー途中に私がとった手書きメモを元に書いてます。なので、細かい部分で間違いがあるかもしれない。
当日の資料については、後日PDFで入手できるようになるとの事だけど、今のところまだ提供されていない。参加者にはPDFで提供されたのだけど、全部じゃなくて、提供されていないスピーカーもいるので。間違いに気がついたら後から訂正します。

まず一番わかりやすい、「電子書籍を作るためのツールを提供している」メーカー3社のセッションから。

【Joel Ingulsrud氏(WoodWing社)】

WoodWing社はオランダのメーカー。InDesign/InCopy用の専用システム開発等を行う。
Joel Ingulsrud氏が紹介した「WoodWing Enterprise」はコンテンツ管理システム。

つまり、すべての素材(画像、テキスト、レイアウト、その他)をコンテンツサーバで管理して、InDesign/InCopyからアクセス→様々なプラットフォーム用データ(iPhone用、iPad用等)を作成…的なソリューションを提供している。

電子書籍データ作成のツール、というより、ワークフロー全体、ソリューションの提供があって、そこから書き出すデータの一つとして電子書籍の形態がある。TIME社のiPad用デジタルマガジンや、この後のセッションで黒須 信宏氏が紹介する毎日新聞社iPad用マガジン PhotoJもこのソリューションを利用して作られているとの事。

これは、システム丸ごとを管理するソリューションなので、個人ユーザが使うものではなく、システムインテグレータの存在が必須となる。
だから、使用料も結構お高い。検証用として5ヶ月間お試しで使う場合初期費用に80万。その後月々13万(5ヶ月間お試しなので65万)
日本ではビジュアル・プロセッシング・ジャパンが代理店となっている。

この値段を聞いても個人で使うようなものではないのは明らか…、というかこれだけ大掛かりなシステムだと、よほど大きな業務として導入しないとペイできないだろう。

電子書籍作成専用ツール、というわけではない。あくまでコンテンツ管理、ワークフロー管理システムであって、そこから書き出す1形態として電子書籍があるだけ。



【宮本 弘氏 (ProField社)】

ProField社はInDesign関連プラグイン開発の会社。XMLを利用した自動組版製品などを開発。
日本の会社だけに、日本の制作事情(分業化されている)をわかっているところが強み。

ProBridgeDesigner-iInDesign CS5ドキュメントからiPad用コンテンツを書き出すためのプラグイン


InDesign用のプラグインという形式なので、個人ユーザでも利用でき、簡単にiPad用データを作成できる。価格もお手頃Standard版で価格86,000円(税抜)(プロ版との違いについては、メモ取り損ねた。カスタマイズできる範囲が違うんだったような)
デベロッパーキットとして、iPodビューワー開発のためのキットもリリース。ビューワーもユーザがカスタマイズ可能。

コンテンツ(電子書籍)の制作と、そのビューワーアプリケーションはまったく別のものと考える。
つまり、現状ではiPad電子書籍の配布はAppleApp storeを通す必要があるわけだけど、App storeに登録(してAppleの検閲をうけるのは)ビューワーアプリだけにして、そのビューワーを通して表示させるコンテンツ(電子書籍)は他のコンテンツサーバに置く(Appleの目を通さない)

このやり方(コンテンツは別サーバ)がApple的に許されるのかどうかは不明だけど、とりあえず現在のところは禁止はされてない…よね?
と、いうかこれを禁止にしちゃったら例えば、天気予報データを他所から取得して表示するとかそういうアプリもだめになっちゃう気がする。
ああ、でもコンテンツがアダルトとかだったらダメとかなるのかなー。でも配信される(Appleを通さない)コンテンツまでチェックしてたらApple大変じゃない?




【岩本 崇氏 (アドビシステムズ社)】

本命。Adobe登場。


今回、Adobeとしてはこの場(電子書籍関連セミナー)で話せるような(詳細な)情報は何もないので、何度もお断りしたのだが、主催者である鷹野氏から毎日のメール攻撃に根負けしての出演だそう(笑)
確かに、セミナー申込サイトの注意事項に「Adobeからの情報はさわり程度の内容になります。それでいいですね?」という同意項目があり、同意しなければ申し込めないように、予防線が張られていた。

ただ、客としてはここが本命という所は間違いなく、さわり程度で帰る訳にはいかんのだよ。


まず、Adobeの開発したiPad用雑誌向け閲覧ツール、WIRED readerを紹介
詳細な説明、FAQはここ
実際の動作はここで見られる

ふんだんに動画が埋め込まれたリッチな雑誌。
これを作成したのがInDesignCS5と、『Adobe Digital Publising Platform』(これが正式な名前?じゃないよね?これらワークフロー全体の総称か?)
InDesignのデータをObjective-CAIRを使ったiPad向けのデータとして書き出す事ができる。

フローとしては、InDesignで作成された縦横レイアウトデータをMagazine Issue Bundlerに通すとiPad用のデータに変換される…書き出される動的コンテンツはFlash…ではなく、HTML5等に対応。この辺Adobeも大人の対応、というか、iPad用にする以上そこは折れるしかないか。ビデオ、スライド、インタラクティブなコンテンツに対応できる。



もう、ほんとにこれ以上見せる情報はない…ということだったが、もう一頑張り、上司に交渉して今後のスケジュールについてだけ、話してもよいという許可を貰ってきたそう。

この『Adobe Digital Publising Platform』は今後Adobe Labsで公開される。時期は2010年夏。スライドでは7月となっていたが、正確には不明。秋にはAIR/Andriodの雑誌ソリューションv1.0発表。これも詳細不明。


全体的に「お客さん、もうほんと限界っす、ギリギリ見せてます。これ以上勘弁してくださいよー」という泣きが聞こえそうなセッションだった(笑)



夏に提供されるツールについて、有償か無償かはまだ未定。でもこれ、もし無償で提供されたらProField、涙目だよ。
機能や、方向性、アプローチはProBridgeDesigner-iにかぶりまくりだろう。しかも本家本元のソリューション。

セミナー後の質疑応答でも「ProBridgeDesigner-iとの違いは」的な質問がでてた。と、いうかProFieldどうすんだって、皆そう思うよね。
Adobeとしてもそりゃ答えづらいだろうが、ここでは「うちのこれはまだ出てませんが、ProFieldさんのはもうすでにリリースされてますし…」のような、つまり先行しているところが勝っているとこだと。(まぁ、機能的な優劣は今の段階では言えないし答えようがないわな)

実際、このツールがでてきてみないとわからないが、ProFieldも同じ事しかできないというわけにはいかないだろうから、何らかの付加価値をつけていくしかないだろう。
それは使いやすさかもしれないし、トータルの(サーバーを含めた)ソリューション提案なのかもしれないし、作られるコンテンツの内容勝負かもしれない(あ、ここでいう内容は電子書籍のテキストとか画像とかの情報の方じゃなくて、書き出されたコンテンツデータの構造とかそういうデータ構成の内容。いくら簡単につくれても作られたデータがヘボヘボであとで修正がいっぱい必要とかじゃダメだろうという意味)



【番外 モリサワ MCBook】

実はこのセミナーの前日、モリサワセミナーがあって、そこでモリサワの提供する電子書籍オーサリングプログラム、MCBookが紹介されていた。
このセミナーでは紹介が無かったが、同じようなメーカーが提供する電子書籍コンテンツ作成ツールとしてこれについても書いておく。

電子書籍オーサリングプログラムを提供するメーカーとして「何を売りにするのか」というのはとても大切だ。
WoodWingはシステム全体の管理丸ごとという売りだし、ProFieldは、簡単さ(InDesignプラグインだけでできるという)手軽さが売りだろう。

モリサワ電子書籍に対して出した売りははっきりしている、「組版と文字」だ。まぁフォントメーカーだしな。

MCBookはInDesignデータから、iPhone用の書籍データを書き出すアプリ。
対象となる書籍分野ははっきりしていて、小説等の文字組書籍。雑誌等の(画像の多い)レイアウトは不可。
InDesign のデータが変換できる…というより、このフォーマットの書籍を作るためにそれにあわせてInDesignで変換用データを作成しますという感じ。

特徴はモリサワの文字組版エンジンを搭載し、禁則、縦中横、ルビなどの縦組レイアウトが可能。美しい組版こだわった表示が可能で、もちろん文字サイズの変更可能なリフロー系。
さらにモリサワフォントが埋め込まれているので、異体字表示可能。

見るとわかるけど、これはもうイメージとして、文庫本がiPhoneに入った感じ。
文藝春秋の電子書籍で採用されている

もうひとつ面白い事に、これ、売り上げから何%かを使用料としてモリサワにおさめるという料金システムになっている。
アプリケーション自体も使用するのに年間数万円払うのだか、その上に、iPhoneアプリとして売り出されたあと、売り上げのうち何%かをモリサワがとっていくという。具体的に何%にするかはまだ未定。「すごく安くお使いいただけます!」とモリサワの人は言ってたが、安いか?これ?
いや、売り上げから数%とるんだったら、年間使用料はなしにすればいいのに。
モリサワにすれば、最低限使用料はとれる上、売り上げからも徴収できる。もしベストセラーでもでたりしたら、すごくおいしいシステムです。



いずれにせよ、各メーカーがオーサリングツールを売る上で「何を売りにするか」は大事だ。
一言で電子書籍といっても、appとして提供されている状態では、電子書籍でやれる事の方向性は様々。
今は、出始めという事もあって、動画、音声等をふんだんに使ったリッチな書籍が目立っているけど(そういうのの方が電子書籍!という感じがわかりやすいからね)モリサワみたいに文字にこだわるというのもありだろうし、画像の美しさとか見せ方(単に動画にするというのではなくて、印刷では見えないような細部まで見える様にするとか、色にこだわるとか)に力をいれるというのもありなんじゃないだろうか。

InDesignからの変換系ではAdobe Digital Publising Platformかなぁ。まだできてないものだからなんとも言えないけど、やっぱり本家が作るというのは強いと思う。これで無償だったりしたら無敵だ。
もちろん、電子書籍を作るにあたって、こういったツールを使わないで自力で開発できちゃう人は、自力でつくればいいのだけど、そうでない人にとってはこういったツール類が必要だよね。



次に「電子書籍をプロデュースする」立場、小木氏、田代氏のセッションについて。
このお二人は、小木氏が幕開けのキーノートセッション。田代氏が最後のセッションで、最初と最後の部分を担当していた。
セミナーの最初と最後が編集、出版のプロデュースという立場の方達だったというのは興味深い。



【小木昌樹氏(毎日コミュニケーションズ)】

「キーノート」
2009年の出版業界の売り上げ、雑誌広告の落ち込みなどのデータをもとに、出版業界が不況であるという話から。10数年前、DTPが広まったときの改革は、あくまで生産工程だけの改革だった。今、電子書籍、電子出版の改革は、書籍の著者、作り手、送り手、うけ手(読者)すべてを巻き込んだ大改革になる。
このあたりの感覚は、この日このセミナーにきた人たちはみんなわかっているだろうと思う。と、いうかそういう状況を感じているからこそ、このセミナーを受けにきてるんだろう。


【田代真人氏(メディアナレッジ)】

「成功する電子書籍ビジネス/ビジネスの立ち位置が天国と地獄を決める」
電子出版をビジネスにすると考えたとき、儲ける事ができるかどうか。
お金にならなければ、ビジネスとしてはやっていけない。趣味で電子出版をやってみたいという人は別。そういう人は(ビジネスじゃない分、どこまででも手をかけられるし)ビジネスよりいいものを作れたりすることもある。という話から、現在の出版ビジネスがどういう風に利益をだしているかを説明。

現在の出版ビジネス、出版社、取次、書店、著者がどういう取り分で儲けを分配しているか。
取次店は書籍が売れる前に、前払いで売り上げを入れてくれる。出版社はその金を元に次の本を作る事ができる。取次は前金を入れる代わりに、売り上げから何%利益を得る。
ほとんどの本は、出版社に利益がでない。しかしたまにでるベストセラーなどで、穴埋めしている。

この仕組み、本を作り続けることで赤字を増やし続け、たまにでる「当たり」で穴埋めするという仕組みは何かに似ている。なんだと思うか。そう「博打」だ。
出版社は博打を繰り返し、取次から前借りした金で走り続ける自転車操業

では、これが電子出版になったらどうなるか。
よく言われる「電子出版なら、経費がかからない分、著者の印税を増やす事ができる」という説は本当か。

まず、Appストアで書籍を売ろうとした場合、Appストアは30%を配信料としてAppleの取り分と決められている。残りの配分70%のうち、デザイン、DTPにかかる経費、出版社にかかる経費を固定費としてそこから著者の印税を決める。さらに、電子書籍は紙の書籍より安いはずだという一般的な認識がある。紙の書籍より高くは売れない。さらにAppストアで売るアプリは150、200、450、600と値段設定が決められている。1円で売りたいといってもその値段で売る事はできない。500円にしたいといっても設定できない(これ知らなかったなー。ホント?)

Appストアでつける事のできる価格で450円としたとして、3000部売れたとする、著者の印税を35%にすると赤字だ。

(以下数パターンの印税で計算)

現状の電子出版の値段付けで利益を出そうとすると、固定費(DTP、デザイン、編集、宣伝費)を下げるしかない。
印税70%が可能なのは、著者がすべての作業を行った時だけだ。

収益をあげるためには何をしたらいいのか。
まず、マーケティング。売れる本を出す。
SNS、Blog、twitterなんでも利用して宣伝
できるだけ多くのフォーマット、デバイスに対応する

どの立ち位置でビジネスするかも大事

  1. 著者になる
  2. エージェント(出版社)になる
  3. 周辺ビジネス(BtoB)で商売する。オーサリングプログラムを売る等

一番収益が出やすいのは3)。2)は多数の著者を集めて売れる本をだせれば収益がでるかも。1)は一人でやるのは限界がある。
できるだけ、自動化、省力化し、ノウハウをためるのも必要。

…と、いかに電子出版が儲からないかという説明でした。
セミナー最後ということで、時間がたらなくて、最後の方の内容がはしょられてしまったのが残念。

個人的には、「電子書籍が儲からない」経費の説明を、既存の出版の経費をそのまま電子書籍にあてはめただけというのはどうかと思った。
いや、だって、たとえば、「紙の本と同時に電子書籍もリリースする」とか「すでに絶版のデータを定型フォーマットにして電子書籍化する」とか「あらかじめ電子書籍でだしておいて、売れ行きによっては紙で出す」とか出版には色々なパターンがあると思うのだけど、あくまで、「紙の書籍の新刊を発行する場合を電子書籍におきかえる」の経費として計算していたから。

もちろん、儲からないというのは事実で、電子書籍だからといって経費が0になるわけではないし、書籍出版より周辺ビジネスの方が儲かるというのも事実だとは思うが。もうちょっと色々なパターンも考えてみたい。



とりあえず、レポート半分書くだけで結構時間がかかってしまった。
残りはまた後日アップします。